2021.06.21
2021.06.21
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
立命館大教授 津止 正敏
「ヤングケアラー」がにわかに政治課題となっている。一般に、「ヤング」とは18歳未満の子どもをいい、「ケアラー」とは家族の介護や看病、世話などを担う人をいう。福祉には感度の鈍いわが政府も珍しくテンポよく動いている。
厚労省・文科省の共同プロジェクトチームがまとめた報告書(5月17日)は、ヤングケアラーに関わる福祉・医療・教育等の関係機関が連携し、早期に発見・把握することや具体的な支援の体制とメニューの整備を図ることなどを盛り込んだ。幼いきょうだいの見守りや家事に追われる子どもがいる家庭への家事支援などが大きく報道された。
政府の取り組みは、市民活動と地方自治体が先導した。2010年に発足した日本ケアラー連盟は、独自の介護者支援に関する法律案(素案)を策定しながら運動を続け、その延長線で自治体での介護者支援の「条例づくり」にも取り組んできた。国家レベルでの介護者を支援するための根拠法の制定とともに、自治体条例という草の根からの根拠法をめざす運動ということだが、すでに条例施行にまですすんでいる自治体も生まれている。
20年2月に議員立法で提案され、全会一致で可決成立(施行は3月31日)した「埼玉県ケアラー支援条例」は、介護者支援を真正面に掲げる日本初のものとして注目を集めた。北海道栗山町では町提出の条例が全会一致で今年3月に可決(施行は4月1日)、三重県名張市でもこの6月議会に条例案を提出するという。条例だけでない。神戸市は、18歳以上の若者も加えて支援窓口「こども・若者ケアラー支援担当」を6月1日に開設した。
長い間、福祉の含み資産とみなされ、ケアを担うことが当然視されてきた家族介護者が、ヤングケアラーを切り口として社会的支援の舞台へと上ろうとしている。「全てのケアラーが健康で文化的な生活を営むことができる社会を実現する」―これは埼玉県ケアラー支援条例がその第1条にうたう目的だが、全国の自治体と日本政府に届けたい。
つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる – 男性介護者100万人へのエール – 』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言 – 』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」 – 』、『子育てサークル共同のチカラ – 当事者性と地域福祉の視点から – 』など。