2021.08.17
2021.08.17
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
関西大教授 所 めぐみ
東京五輪・野球のイスラエル代表選手が動画投稿サイトに、「強度を試す」として選手村の段ボールベッドを「破壊」する動画を投稿した。同時に9人が乗って飛び跳ねた後、ベッドのフレームが壊れていた。動画は広く拡散されSNS上でいわゆる「炎上」が起こり、日本はもちろん複数の海外メディアが報じるなど話題となった。
私はSNSや動画サイトを直接見ておらず、この一連の反応を伝える新聞記事をネット上で最初に読み、選手たちの行為に対して、正直不快な感じをもった。
しかしほどなくして、一気にクールダウン、冷静になれた。ベッドの制作会社の反応を伝える新聞記事をネットで見たのだ。「ベッドを作った企業としてはグチャグチャになった動画が拡散したことは残念。でも、それ以上に選手たちにケガがなくて本当によかった」との広報担当者のコメント。そう、私にはこの感覚がなかった。そうだよな。ケガがなくてよかった。記事において「メダリストがベッド上で喜んで跳びはねること」は想定していたが、9人ものアスリートが同時に跳びはねるのは「想定外だった」と。
この会社は動画公開直後に騒動が起き出した時には、「選手の皆さんが選手村の様子を動画におさめてSNSで発信してくれるのはとてもうれしいです」とツイート。直接騒動に触れてはいないが、選手らのSNS発信について肯定的な見解を示していた。頑丈で再生や再活用可能なクールでエコな商品であるが、一貫して対応もクールなのだ。
さて、動画を投稿した選手は謝罪動画を公開。その後、静岡県熱海市で発生した土石流の被災者の支援に向けて寄付を募るウェブサイトを立ち上げ、自身もオリンピック開催国への感謝の気持ちを込めて200を寄付したと伝えるニュースを見た。
ネットが普及した今、五輪でも、競技者、サポーター、企業など、国や立場を超えてさまざまな声の発信と交流がある。酷暑にコロナ。熱くなりがちだが、クールでもいたい。
ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。