ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

こころはまるく

2021.12.20

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

紅葉がピークの日曜日。当然のことながら人出もピーク。その日の夕方、コンサートを終えた私はタクシーを呼んだのですが電話がつながりませんでした。荷物も多くて身動きが取れず、何とかアプリで手配ができて待つこと30分。ようやく携帯に到着の表示が出たときはもう暗くてタクシーが見つからず戸惑っていると、「到着してるんですけど」と運転手さんから電話がありました。「駐車場で待っているんです」と申しますと「分かってますよ!」とすごい剣幕(けんまく)でどなられました。驚いた私は「怒らなくてもいいじゃないですか」と思わず言ってしまいました。

結局、タクシーは駐車場から少し離れたところにとまっていて無事に乗ることができたのですが、運転手さんは疲れていてイライラが収まらなかったのでしょうか。到着時に、縁石で車を擦られてしまいました。気の毒なことでした。

ふと、お寺の参拝のしおりで知った『気心腹口命』ということばが浮かびました。しおりには「気」は細長く「心」は丸く控えめに、「腹」は寝かせて「口」は小さく、「命」の最後の一筆は長く書かれ、「きはながく こころはまるく はらたてず くちつつしめば いのちながかれ」と仮名が振ってありました。

時おり思い出すことばで、特にまるい「心」の一字は、いつも反省の気持ちを促してくれます。そして最後の「いのちながかれ」は単に「長生き」という意味ではないだろうと漠然と思っていたのですが、その日、その意味が分かった気がしました。

「長い」は「きはながく」にもあるように、のんびりしたという意味があります。つまり、「穏やかに生きることができる」ということではないかと思ったのです。確かに、お互いのこころがまるければ、ぶつかって傷つけることもなく、皆が平穏に過ごせるでしょう。

運転手さんが渋滞でイライラされたのも分からなくはありませんが、こころはまるく、安全運転でお願いしたいと思っています。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。