ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

コロナ禍対策と共生の精神

2022.02.16

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

さわやか福祉財団 会長 堀田 力

コロナ禍対策が遅れているというので菅政権の人気がガタリと落ちた。国民の多くが早期の対策を望んでいたことは、自らつらい外出自粛をすることを覚悟していたということである。菅総理は、GoTo関係産業の声にとらわれ過ぎて、国民全体のけなげな気持ちをつかみそこねたということだろう。

そこで焦って打ち出したのが罰則規定である。保健所の調査にうそをついたり、入院を拒否する行為に刑事罰を付けようとした。こういう行政措置の効果を強化するための刑事罰について国民が声を上げるのは珍しいのだが、今回は身近な問題と感じているからであろう、多くの国民が、これらの行為を犯罪として処罰することに反対し、法案から刑事罰は削除された。

もともと日本人は悪に対する非難感情が強く、死刑賛成の意見も世界レベルよりはるかに高いし、一般人の代表である裁判員の量刑意見は重い傾向がある。その傾向からすれば、今回政府が罰則をもって取り締まろうとした行為は、いずれも新型コロナを広めるおそれの強い行為だから、刑事罰で取り締まるのも当然という意見になりそうなものである。それがそうならなかったのは、多くの人が取り締まられる側の人たちの立場に立って考え、「それは行き過ぎだ」と感じたからであろう。日本人は、悪に強いが弱い立場の人には優しいのである。

その優しさがもう一歩進めば、新型コロナにかかった人だけでなく診療する人たちまで差別するような非人間的なふるまいは控えるところまでいくであろう。それだけでなく、コロナ禍のため外出を控え孤独に耐えている者同士がつながり合い、助け合う活動が自発的に広がるであろう。

わがさわやか福祉財団は昨年5月から全国に寄付を募ってそういった助け合い活動に助成しているが、助け合いは着実に町内会レベルまで浸透しつつあると実感している。日本人の心はあたたかいのである。

ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。