ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「ウクライナ難民」問題が問いかけるもの

2022.05.16

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

ロシアの違法なウクライナ侵攻によって、多く一般市民が虐殺され、街が破壊されている。連日の報道には、言葉を失う。

国連の4月21日時点での集計で、ウクライナでは1200万人以上が難民となり、国内に710万人、国外に513万人が避難されているとのことである。

国外では、ポーランドに287万人、ルーマニアに77万人、ハンガリーに48万人が避難しており、周辺国の受け入れ態勢も限界だという。

政府は、今回のロシア進攻に対し、経済制裁、査証発給停止措置、ウクライナ国民への緊急人道支援などを行ってきたが、その一環として「避難民」の積極的受け入れ措置を決定した。その結果、4月30日現在で820人の人が、日本にも避難されてきている。

問題は、どのような内容の支援を行うかだ。もともと国際的には「避難民」という言葉は通用しない。本来は、これまでのミャンマーやクルドの人たちと同じく、「難民」として対応すべきなのだが、世論・マスコミの関心が高いところから、「避難民」という考え方を採り、「難民」とは違った対応をしようというのが今回の考え方だ。

身元引受人のいないウクライナ難民は、政府から渡航費、生活費(1人につき100万円)、住環境整備費(1戸につき50万円)が支払われ、自治体によっては、寄付金を基に基金などを作り、一定の援助などを行っているところもある。このように支援の内容としては、まだまだ貧弱なものであるが、それでも難民認定が極めて限定され、認定申請中の人については、生活費としてわずか1日1500円(子ども750円)、家賃補助月額4万円(単身者の場合)の支給となっていることからすれば、まだ、マシな支援と言えるだろう。

もともと、日本は、「難民鎖国」と批判されてきたが、ウクライナ問題が議論になっている今こそ、出入国管理制度の改善とともに、根本的な「難民政策」の充実を行うべきである。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。