2022.10.24
2022.10.24
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
ACT―K主宰・精神科医 高木 俊介
クラフトビールがブームとなっている。コロナ禍で負った傷は深いが、再起動が始まっている。
京都・一乗寺ブリュワリーは、障害者に仕事を作ることを目標に創業した。しかし、なにぶん経営感覚ゼロの精神科医、その目標にはなかなか届かない。それでも、障害者施設で作った麦とホップを使って農福連携ビール「ふぞろいの麦たち」を仲間とリリースしたり、障害者アートのラベルを使ったりしてきた。飲食業のプロを経営に迎えて売り上げも伸びつつあったところに、コロナが襲った。
出荷量ゼロの日々が続くと、「強制的な自粛」のもと、うつになったり自殺に至る零細企業や自営業の人々の気持ちもわかる。実際、そのような人や行く当てない学生のうつや不安に、精神科医としても接している。
そのような状況で、起死回生、瓶ビールの充実をめざして工夫をこらした。コロナ禍前、京都では地元醸造所が集まって、京都産100%ビールプロジェクトを始めていた。各醸造所とも苦しい中、その団結は続き、京都産品を使ったビールを模索した。
京都はビールと縁が深い。明治維新のダ・ビンチである明石博高が清水寺の音羽の滝の水でビール作りに挑んでいる。亀岡は古くからビール大麦を作ってきた。最近は京都府与謝野町がホップの町として登場。京都産の酵母の分離・培養も進む。これらに加え、副材料として使える京の農産物は多い。
一乗寺ブリュワリーでは、ワインの風土性を表すテロワールという言葉をかりて、京都産品を使ったテロワール京都シリーズをラインアップした。城陽市特産の梅である城州白、京都産を広げつつあるレモン、すでに有名な水尾のゆず等々。地産地消と6次産業化は産業を身近にし、障害者雇用にも結びつきやすい。
このような動きを加速し充実させ、当初の目標を超えて、インクルーシブな社会をつくる。そんなクラフトビールの動きに注目しておいていただきたい。
たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。