ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「年金」は誰のもの

2023.02.27

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

物価の上昇が止まらない。昨年12月の生鮮食料品を除く消費者物価指数が前年同月比で4・0%増と41年ぶりの上昇である。エネルギー価格の高騰、円安による輸入コストの上昇が大きな要因であり、家計、企業活動に深刻な打撃を与えている。家計への影響を少なくするためには、まず、物価上昇を上回る賃上げが必要であり、政府も、これを企業に求めてはいるが、うまく行っていない。それ以上に問題なのは、高齢者、障害者の生活を支える年金である。

もともと、国民年金の額は、40年間納付しても支給額が月6万4810円と低額で、年金だけで生活できる金額ではない。にもかかわらず、現在の制度設計では、物価や賃金の伸びよりも抑え、20年間かけて支給水準を最大3割も下げることになる「マクロ経済スライド」「賃金マイナススライド」制度をとっている。このため、2023年度の国民年金額は、67歳以下の人は2・2%、68歳以上の人は1・9%しか増えず、実質的に目減りとなる。年金が市民の生活を支えるものになるためには、最低保障年金の確立は絶対必要であるが、これも実現していない。しかも、少子化が進むために、財政悪化がさらに予想されるとして、保険料支払い期間を40年間から45年間にする案すら検討されている。

これらは、根本的に言えば、高額所得者優遇の保険料制度とヨーロッパ先進国に比して、雇用主負担分と公的負担分が少ないことに原因がある。にもかかわらず、年金の積立金に回すべき費用を防衛費増額分の一部に充てようとする議論すら出されている。

フランスでは、62歳の年金開始年齢を64歳に引き上げるとの政府案に対して、全国で112万人にも及ぶ大規模ストが行われた。

年金のあり方について、もっと市民的な議論と関心が持たれ、われわれの意見が十分に反映された年金制度にしなければならない。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。