ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

精神科病院虐待事件に思う

2023.03.20

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

ACT―K主宰・精神科医 高木俊介

また、精神科病院で虐待事件が起こった。東京八王子の滝川病院。かねて問題病院とのうわさはあったが、現状に耐えかねた内部スタッフからの通報があり、弁護士らが周到な準備のもとに告発に踏み切り、複数の看護者が逮捕された。NHKの調査報道も放映され、話題を呼んだ。

内部通報による録音録画は信じがたい暴言・暴力による人権侵害を映し出す。眠れない訴えの患者に「うるせぇ黙れ」と枕で叩(たた)き、別の患者には「何回言ったらわかるんだ、腕折るぞ」と脅す。患者をあざ笑う院長の声も録音されていた。

弁護士の面会に患者は病室に戻ったら殺される、怖いと泣き、ある患者はまともな治療もないまま寝たきりとなって救出された。退院のほとんどが死亡退院であるという惨状にも、行政は木で鼻をくくった対応だ。生活保護の担当者も周囲の病院も、すぐに患者を入院させてもらえるこの病院に頼っていた。

この病院だけではない。関西でもつい2年前、神出病院事件があり、やはり職員が陰湿な虐待行為を続けていた。私が医師になった40年前、院長が患者を日常的に殴り、職員が隔離中の患者を殴り殺した宇都宮病院事件があり、世界に日本の精神医療の闇を晒(さら)した。その後も精神科病院の不祥事は相次いでいる。

精神障害は自分とは関係ない問題だと、多くの人は思っている。しかし、例えば、歳をとれば誰でも認知症になる。精神症状が激しいことも多く、ケアが大変になると精神科病院に入院するしかないのが現状だ。ずっと病院に任せてきたので、地域や施設にはちゃんと対応する能力が育っていない。あなたもある日突然、隔離され拘束され、密室での暴力に晒される。

社会には精神障害者への差別が蔓(まん)延しており、精神科病院は社会の目が入らない密室である。そこでの虐待を防ぐには、精神医療を地域に開き、病院を縮小するしかない。そのためにも、地域の精神医療と福祉の拡充が喫緊の課題だ。

決して他人事(ひとごと)ではない。

たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。