2023.05.29
2023.05.29
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
関西大教授 所 めぐみ
特殊詐欺事件が後を絶たない。ニュース等で見る事件が、身近なところでも起こっている。注意喚起がなされているが、「自分は大丈夫」と思いこむ、また冷静さを欠いてしまうこともありうる。特殊詐欺の被害に遭いかけている人への声かけなどによって、被害を未然防止できた例などもある。本人も周りの人も気づけるかどうか。そして、動けるかどうか。
警察署から私が勤務する大学の学生さんを表彰したいとの連絡。学部長として表彰に立ち会う際に、詳しくいきさつをきいた。
ATM前に並んでいると、電話で指示を受けながら振り込みをしている高齢の方がいた。その様子から、これはいわゆる振り込め詐欺じゃないかと気づき、その方に大丈夫か詐欺の電話ではないかと声をかけて尋ねた。そうではなない、大丈夫との答えが返ってきたものの、やはりおかしい。近くに交番があることを知っていた彼女はすぐさま走る。直ちに今見てきたことを伝え、今度は交番にいた警察官と一緒にATM前に戻ったそうだ。振り込みを何度かに分けてしていたためか、まだご本人はそこにおられた。警察官からも諭されると、さすがにご本人も了解されて、すぐに当該の金融機関に連絡。詐欺だということがわかった。
こうした振り込め詐欺などを未然に防止した例として、コンビニの店員の働きをニュースでみる。しかし一個人である場合、彼女のようにおかしいと気づいてすぐに行動に移せる人ばかりではない。詐欺の疑いありとして声をかけるには結構なハードルがあるだろう。本人に声をかける段階までできたとしても、本人から「大丈夫」とか「あなたには関係ない」などといわれれば、そこから先の行動に進められるかどうか。彼女の場合、地域の高齢者との数年にわたるダンス活動の経験から高齢者に話しかけることへのハードルは低かった。すぐ近くに交番があった。気づいた後の行動を支えられるもの。分析が必要だ。
ところ・めぐみ氏
1967年生まれ。同志社大文学部社会福祉学専攻卒。関西大人間健康学部教授。専門は地域福祉方法論、福祉教育。