2023.07.11
2023.07.11
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
弁護士 尾藤 廣喜
人口減少が続いている中、政府はやっと「少子化対策」に本腰を入れる方針を打ち出した。しかし、私たちは、国のために子どもを増やそうと思っているわけではない。少なくとも私は、生きていて良かった、良き友人や家族に囲まれて幸せだと思う子孫を残したいとの思いで子どもを産み、育てているつもりだ。
その意味で、少子化対策のためには、まず、この国が、子どもを産み育てたいとの希望が持てる国であることが必要だ。しかし、この国の現状を見ると、暗黙とする。去年1年間に自死した児童生徒の数が過去最多となっているという。また、若者の多くが非正規労働者で、奨学金など多額の借金をかかえ、仕事にやりがいを感じる人が極めて少ないという。国全体に格差が広がり、生活困窮者が増え、「炊き出し」に並ぶ人が過去最多を更新し続けている。医療の面でも、高すぎる保険料のため、保険料が支払えない人が増え、自己負担も上がり、国民皆保険の空洞化が指摘されてから久しい。介護保険も、同様だ。生活保護の基準額が引下げられ、相変わらず「水際作戦」といわれる窓口規制が続いている。年金も最低保障年金が制度化されず、実質的引き下げが続いている。中でも、最も深刻な問題は、「自分さえ儲(もう)かればよい」との拝金主義の横行、社会的弱者を冷笑し、攻撃する人々の増加という精神面での荒廃だ。
「異次元の少子化対策」をいうのであれば、労働環境、ジェンダー問題、社会保障の拡充、「ひとりぼっちをつくらない社会」の実現など、根本的な政策転換が必要だ。
政府は、少子化対策の子育て支援策として、3・5兆円の予算を組むといいながら、その財源は、医療保険料の上乗せと社会保障費用の削減で対応するという。一方、防衛費は倍増するという。考え方が逆ではないか。
この国が、子どもを産み育てたいとの希望が持てる国にならない限り、本当の「少子化対策」などできるはずがない。
びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。