ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

ことばを交わし、こころを交わす

2024.04.29

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

小さな駅に降り立ちますと、改札口には駅員さんの姿がありました。乗車券を受け取りながら「ありがとうございました」とひとりひとりに言っておられましたので、思わず私も「ありがとう」と言ってしまいました。数年前のことですが、何かあたたかいものを感じたことを覚えています。

多くの駅が近く無人化される計画を知りました。無人駅と聞くとのどかなローカル線をイメージしますが、自動化、合理化するためなのですね。ここ数年あらゆることがそのような傾向にあり、日常生活もずいぶん変わってきました。

買い物は黙って商品をカゴに入れ、レジを通して袋詰めするのが当たり前。セルフレジとなれば、店員さんとの接点は全くありません。食事はネットの予約フォームで申し込むと、自動配信の確認メールが届きます。店ではタッチパネルで注文してくださいと言われ、時にはQRコードを読み込んでLINEで注文。対応は迅速ですが、料理してくださった方との距離感が生じることがあります。

問い合わせの電話をしたときに「音声ガイダンスに従って…」と機械の声がするとがっかりします。また、どこへ行くにもスマホが案内してくれますから道を尋ねることも尋ねられることも滅多(めった)になくなり、会話する機会は本当に少なくなっています。

そのようなシステムに戸惑い、殆(ほとん)どことばを発することなく物事が済んでしまうことを寂しく思っているはずの私ですが、無意識のうちに徐々に慣れてしまっていたのでしょう。先日、コンビニの店員さんが「いってらっしゃい」と元気な声で見送ってくださったとき、小さな駅で感じたあたたかさを思い出し、ことばをかけることの大切さに改めて気付かされました。

今の時代には少し不似合いなのかも知れませんが、ことばを交わし、こころを交わすことができるときは、「ありがとう」「ごちそうさま」「お世話さま」と積極的に伝えたいものだと思います。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。