ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

図書館が民主主義の支え

2024.06.11

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

日本弁護士連合会の人権擁護大会の準備のため、5月19日から25日まで、スウェーデンを訪れた。3回目の訪問である。日本の生活保護に相当する生計援助の制度について、中央政府だけでなく、自治体でどう運用されているかを見ることが目的だった。いつも私たちに、貴重な調査先のアドバイスをしてくれるノーラ・リンダルさんから、今回は、ぜひとも図書館を訪問したら良いとの提案がなされた。私たちは、疑問を持ちながらもノーラさんに任せることにした。

同国で図書館といえば、「美しすぎる図書館」といわれるストックホルム市立図書館が高名だが、今回は、リンショーピングという人口10万人余りの南部の都市の中央図書館。訪問して驚いたのは、日本とは違って、図書館がさまざまな地域の活動の企画、実行の中心になっていることだ。

本の閲覧、貸し出しという通常の部門の充実はもちろん、その他に、地域の歴史的文化財の博物館的な役割も果たしている。1階のスペースには、コンサートや演劇ができるコーナーもあり、2階の広い廊下部分では、市民の絵画、塑像などの作品を展示したコーナーになっている。

とりわけ、私が注目したのは、市民のさまざまな要求に応え、市民の頼りの場所になっていること。同国では、ほとんどの手続きがオンライン化されており、年金、税、生計援助などの諸申請も全てオンラインで手続きができる。反面、面談で相談を受ける窓口が不足しているので、図書館が、インターネットを使うためのサポート、移住者のためのスウェーデン語の練習、孤立した高齢者の相互交流、貧困地域の子ども達に定期的に絵本を届ける活動、求職サポートや起業の相談なども行っている。いわば、地域の民主主義を支える中心となっているのだ。

図書館機能の低下が言われる日本の現状に見る時、図書館の機能の復権と拡大の方向をスウェーデンに学ぶことも重要ではないか。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。