ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

届け歌声、大空へ

2024.06.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠

2月6日に94歳で永眠された赤松良子さんを偲(しのぶ)会が、初代館長を務められた「びわ湖ホール」で開かれた。大使や大臣などの要職を歴任された赤松良子さんの大規模な追悼式はすでに東京で執り行われており、この会は関西でご縁をいただいた者たちのごく小さな集まりだった。皆それぞれに、亡き方がどれほど聡明(そうめい)で朗らかでこよなく芸術を愛した優しく強い女性であったかを感謝を込めて語り合った。

深い余韻を残して会が終わった後、村田和彦館長から「午後の京都市交響楽団の演奏を聴かれませんか?」とうれしいお誘いがあり、大ホールに入った途端、子どもたちの大騒ぎの声!なんと広い会場のほとんどが小学生。これは「ホールの子」という事業で、14年も前から「世界有数の設備を誇るびわ湖ホールで超一流の芸術鑑賞体験を滋賀県下のすべての小学生に」との主旨で開催されてきたとか。

開演後、ぴたりと静かになった大ホール。勢ぞろいしたオーケストラの頭上には大きなスクリーンがあり、クラシックの名曲の演奏が進むごとに曲の解説と演奏者が映し出される。

映像と音は一瞬のズレもない。見事な構成と演出だ。指揮者の阪哲朗さんの華麗で繊細な指の動きもはっきりと正面から見える。私の向かいの席の男の子たちは、阪さんのマネをして完全に小さな指揮者に成りきっていた。

そして圧巻のプログラムは「翼をください」だった。子どもたちの大合唱にフルオーケストラが総力で音を重ねる。スクリーンには青空に白いハト。「この大空に翼を広げ飛んでいきたいよ」大ホールに満ちる澄んだ歌声。

涙ぐみながら私は思った。これは赤松良子さんが開設当時、願われた光景にちがいない。大空で見守る赤松良子さんのもとに、ホールの子たちの歌声はきっと届いていることだろう。

ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。