ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「人口ゼロ社会」の不気味さ

2024.07.22

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

立命館大名誉教授 津止 正敏

厚労省試算によれば、2024年の出生数が70万人割れの公算大だという。

昨年の出生数は72・7万人で、合計特殊出生率は過去最低の1・20と公表された。団塊世代(1947~49年生)の出生者数が年260万人を超え、そのジュニア世代(70年代前半生)でも年200万人台、という時代があったことからすると驚愕(きょうがく)の事態が進行していることになる。

1990年には「1・57ショック」というワードも生まれた。前年(89年)の出生率に拠(よ)る。不吉ないわれがある丙午(ひのえうま)だった66年の出生率1・58をも下回ったからだ。以降、さまざまな少子化対策、子育て支援策が施行され、いま「異次元の少子化対策」という政策フレーズも登場した。手を替え品を替え、という様相だが事態は改善されるどころか、さらに加速している。

国立社会保障・人口問題研究所が2020年国勢調査を起点にした将来人口推計によれば、総人口は70年には8700万人に減少し、高齢化率は38・7%へと上昇する。さらにその先は?と突き詰めていけば、人口減少社会の先にあるのはいずれ人がいなくなる不気味な「人口ゼロ社会」だ。社会の持続可能性を失する由々しき事態だ。

人口増加が貧困を引き起こすと説いたのは資本主義勃興期の『人口論』(マルサス、1798年)。だが、その後の人類の英知と歴史は、富の偏在や資源の浪費を不可避とする社会体制の構造にこそ貧困の根本要因があること、次世代生成力の脆弱(ぜいじゃく)化もそこに起因することを突き止めてきた。

マルサスは貧困救済や福祉を人口増に加担する愚策として批判した。日本はじめ各国の少子化対策とは逆のベクトルのようにも見えるが、人口問題と福祉の相関性への着目、その社会の持続可能性に関わっての論点であることは通底する。

少子化問題の本質は何か。この問いは人類社会の存続とそのあり方に深く関わっている。少子化の行き着く先は「人口ゼロ社会」。不気味だ。

つどめ・まさとし氏
1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学教授。大学院社会学研究科修士課程修了。
京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て、2001年から現職(立命館大産業社会学部教授)。2009年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ、事務局長を務める。著書に『ケアメンを生きる – 男性介護者100万人へのエール – 』『男性介護者白書―家族介護者支援への提言 – 』、『ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む「未来」 – 』、『子育てサークル共同のチカラ – 当事者性と地域福祉の視点から – 』など。