ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

視野を広げて自信持って/月例会は「何でも話せる場」(2020/07/14)

2020.07.14

  • 広がる 地域の輪

吃音者グループ「京都言友会」

例会に備え、資料の作成作業をする京都言友会の会員たち(2018年7月、京都市中京区・京都市聴覚言語障害センター)=提供写真

 新型コロナウイルスの新たな感染者数が落ち着いてきた6月半ば、京都市左京区の府立植物園内を歩くマスク姿の5人グループがあった。吃音(きつおん)のある人たちでつくる京都言友会の「植物園例会」に参加した会員たち。他の入園者と行き交いながら、大輪のアジサイやトケイソウなどをめで、散策路上と売店内で楽しい会話を弾ませた。

 例会は単なる親睦行事に見えて、実はある狙いがあった。参加した一人で会の事務局長、舩橋信之助さん(71)が明かす。「吃音者は、他人を意識すると緊張で言葉が出にくくなります。植物園のような公開の場で、他の入園者の視線を感じながら仲間同士で話しをすることは、緊張を克服して自分に自信をつける意味で絶好のトレーニングになるのです」

 京都言友会は1967年、吃音克服を目ざす有志たちで結成。当初は吃音の矯正を主眼に呼吸や発声の練習を続けた。やがてレクリエーションや例会を通じ、会員同士が吃音を気にせず何でも話せる場にすることで吃音を心理的に乗り越える方向へ転換していった。

 現在の活動は、毎月の例会と年3回の吃音講座が2本柱。例会では、講師の話を聴くほか、会員同士で本を読み合ったり、電話で話す練習も行う。会員以外の吃音者や家族らも集まる吃音講座は、専門の言語聴覚士たちが発声困難時の対処法などを解説する。参加者は時に100人を超えることもあり、子どもの吃音に詳しく自身も吃音者の九州大学病院の菊池良和医師が来演する講座は、とくに人気が高い。

 吃音の症状は百人百様といわれるが、幼少期に発症する発達性吃音と、青年期から起こる獲得性吃音の大きく2つのタイプがある。発症原因は遺伝や脳神経系の異変など、さまざま指摘されながら、完全解明には至らず治療法も確立されているわけではない。

 会員の一人で高卒後に発症したという川崎洋平さん(48)は「入会してかなり改善しました。緊張から解放してくれる仲間が増えたことが何よりうれしい」と語る。

 社会一般の理解が進んできたとはいえ、吃音者に対する差別的な扱いは依然残る。京都言友会でも、成績は申し分のない大学生の会員が就職面接で連続数十回不合格になった例があったという。

 今年度から会長を務める森育司さんは体験から、若い世代に向けた吃音との付き合い方をアドバイスする。「人前で声が出なくなる恐怖と緊張は、思春期に近いほどつらい体験として残る。心がすさんでも、他の世界へ目を向け多様な人と交流すれば、苦しいのは自分だけではないと分かるはず。歳をとるとともに発声時の緊張は解け吃音は軽くなることが多い。何か悩んだら私たちを訪ねてほしい」

 会の長年の課題は新会員の確保。長続きする会員が少なくなっているため、若い会員を増やし定着してもらう方策を模索している。例会や講座への長期参加が、吃音改善に有効なことは実証済みで、会では体験講座を刷新するなど新しい魅力づくりと情報発信を進めていくという。

京都言友会
京都市を中心とした府内の吃音者たちが集まり1967年に設立した任意団体。正会員と会報購読会員の計75人で構成。京都市聴覚言語障害センター(中京区)を拠点に、吃音の改善・克服と社会一般の理解、啓発に取り組んでいる。2003年、京都新聞福祉賞受賞。連絡先はEメールkyoutogenyuukai@ybb.ne.jp