ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

家族支える態勢充実目指す/知的障害者の学びを支援(2021/02/16)

2021.02.16

  • 広がる 地域の輪

一般社団法人「京都手をつなぐ育成会」

京都市内の小学校へ啓発キャラバンに出かけた京都手をつなぐ育成会のメンバーたち(昨年11月4日、山科区)=提供写真

 まだ幼い少年が1人で地下鉄に乗って来た。電車が動き出すと、窓に向いたまま声を出し始める。「次は東野」「次は椥辻」…けげんな表情で見つめる乗客たち。

 京都市山科区の小学校で昨年11月、年配の女性たちが児童を前に演じた寸劇の一こまだ。「京都手をつなぐ育成会」が、知的障害への理解を促すために始めた啓発キャラバンの一環だった。チームは「みやこ・まいこ隊」と名付けられ、メンバーたちは2年前から脚本を作り演技の練習を重ねていた。

 地下鉄の少年はなぜ急に声を出したのか―。心理と行動の原因を寸劇で学んだ4年生のクラスからは後日、育成会に感想文が届いた。「障害のある人にお手伝いできることが必ずあると分かった」「どう接してあげるかを、考えます」

 「知的障害は外見では分かりづらく、実像を正しく知っていただきたい。障害の有無に関係なく、互いに個性と人格を尊重し合う社会の実現につなげたいのです」。育成会の藤木惠会長はそう話し、次の出張依頼を待つみやこ・まいこ隊へ「ぜひ、ご連絡を」と訴える。

 育成会は、京都市域の知的障害児・者と家族の会として活動歴が長い。共同作業所開設を早くから手がけ、現在は「山科工房」(山科区)など作業所から発展した就労継続支援B型事業所5カ所のほか、相談支援や生活介護の事業を展開している。

 独自の社会教育事業として続けてきた「青年学級」は、養護学校に高等部がなかった時代、休日の中卒生を対象に算数や漢字を教えたのが始まり。教員OBらが講師となり、1983年からは京都市知的障害者学習ホーム「ひかり学園」(左京区)を会場に、美術や英語を学ぶ日曜教室(月2回)を開講した。教科とパソコンなどを教える学習会(月2回)、生け花や手芸を楽しむクラブ活動(月1回)も盛んで、受講者は約100人を数える。

 長男(32)を青年学級に通わせる育成会の尾高紀子さんは、効果を実感している一人。「青年学級は余暇活動が充実。長男は横のつながりが、たくさんできました。私も育成会で多くを学ばせてもらい、この経験を若いお母さんたちのために役立てるつもりです」

 地道に成果を上げる中で、突然のコロナ禍は育成会の事業も直撃した。1回目の緊急事態宣言ではB型事業所を休止。2回目の宣言では各工房ごとに対策を打ち、青年学級は開講日を半分に減らして乗り切る態勢をつくった。

 会員、家族の高齢化に伴うこれからの課題は、まずショートステイ(短期入所)の充実。今は親が倒れるなどの緊急時に、子どもたちをすぐ受け入れる態勢が弱く、施設整備の検討が急がれる。会員の減少傾向も放置できない。毎年、新学期には市内の支援学校と育成学級の全1年生に育成会作成の「生活支援ノート」(終生の成長記録簿)を配布して保護者を勧誘しているが、反応は今ひとつ。「本当に困った時、頼れるのは育成会」を前面に打ち出し、さらに働きかけを強めることにしている。

京都手をつなぐ育成会
1954年、知的障害の子を持つ親の会として発足。現在、他の3法人と協力して就労継続支援B型事業所や移動支援、相談支援などに取り組む。2017年、「青年学級」の活動で文科大臣表彰。19年、懸案だったグループホーム(右京区)を開所。会員約500人。京都市右京区西京極新明町。事務局075(322)1070