ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

子どもと、顔の見える関係築く/亡き母のつながり残る地元で(2023/09/18)

2023.09.18

  • 広がる 地域の輪

こども食堂・菓子工房 わだち

素材にこだわった菓子を販売する「わだち」代表の石田智子さん(左)と製造を担当する夫の健治さん=京都市伏見区

近鉄・京阪電鉄の丹波橋駅に近い京都市伏見区の桃山学区。住宅1階で週に1度、手づくりのクッキーやパウンドケーキ、プリンなどが販売されている。2階では月に1~2回開かれる子ども食堂を、小学生親子などが利用している。

三十年以上教諭を務めた石田智子さんが代表として「わだち」の運営に至るには、亡き母から今につながる桃山学区とのきずなが縁になっている。

府立高の国語教諭を2021年春に定年退職するまで石田さんは、経済面や家族の介護などさまざまな困難を抱える生徒と接する中で、個別の支援が必要だと痛感していた。

「子どもの居場所をつくろう」と決心した。亡父が所有していた土地に2階建て住宅を新築し、同年秋にまず子ども食堂を始めた。

京都市内や乙訓地域の高校に長年勤務して現在は中京区に住む石田さんにとって、自身の地元との縁は薄くなっていた。ところが、桃山学区の社会福祉協議会(社協)では、亡き母のことを記憶している人が大勢いた。社協副会長や児童委員・民生委員を務め、高齢者配食など地域福祉に尽力したからだ。

「あなたのお母さんに福祉活動を教わった」と、石田さんより年長で母の後輩世代にあたる人たちが、子ども食堂にボランティアとして協力を申し出てくれたのだった。

学区社協は会報を通じて、子ども食堂が開設されたことを住民に伝えた。

現在は3人の社協メンバーが、子ども食堂の調理面を支えている。それだけではない。「あの家にはこんなお子さんがいるよ」など支援が必要な家族について、日常の活動を通じて得た情報にもとづきアドバイスしてもらうことも多い。

「顔の見える信頼関係を築いてこその生きた情報です。地域で生きることの大切さを、教わっています」と石田さんはかみしめるように話す。

子ども食堂に続いて、1階に菓子の調理設備を整えた。

司法書士・行政書士の夫健治さんは、製菓衛生師などの資格を持つパテシェとして製造を担っている。国産小麦、よつ葉バターを用い、マーガリンやショートニングは使わないなど素材にこだわった品をつくり出す。京都テルサ手づくり市、東本願寺門前市などに出張して販売する機会も増えた。

わだちの場所は軌道の跡地だという。祖父が鉄道会社に提供し、父が買い戻したという経緯がある。子ども食堂や菓子工房が運営できているのは、亡き母のつながりを通じた人たちの応援のおかげだと、石田さんは感謝している。

菓子の包装ラベルには、鉄道の線路と枕木がシンボルのように図案化して印刷されている。「世代から世代へのきずなを、地域の中でむすんでいきたい」。車輪の軌跡を意味するわだちの名称には、石田さんのそんな思いがこめられている。

わだち
京都市伏見区桃山羽柴長吉西町 075(601)2220 代表の石田智子さんは、障がい児を育てる親たちの写真展を主催する「トコトコの会」京都代表をはじめ刑務所受刑者への教育支援や京都こども在食プロジェクト事務局などにも携わっている。