ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

摂食障害回復へ一歩ずつ/アクセサリー制作、心地良い居場所(2024/07/29)

2024.07.29

  • 広がる 地域の輪

女性通所施設「プティパ」

繊細で丁寧な仕上がりの自主製品を示すプティパの權所長=左=と東副所長(京都市下京区)

「摂食障害からの回復のために、手を取り合ってできること全てを」。そう掲げるNPO法人SEEDきょうとが、京都駅に近い龍谷大大宮キャンパスそばで通所施設「プティパ」を運営している。

京都市内を中心に20代から70代の1日定員20人が働く。水引やガラスを用いたアクセサリーのほか京くみひものブレスレットを新たに加えて商品化している。

利用者の自主製品をテーブルに示しながら、「繊細で丁寧な仕事ぶりがプティパの持ち味です」と副所長で臨床心理士の東希美さん(35)は説明する。

支援プログラムでは、病気や生活の困りごとを利用者同士で語り合う「トーク」の時間を重視している。広報紙づくりにも利用者が企画編集に加わり、梅小路公園や商業施設での販売にも参加しているという。

就労継続支援B型事業所として、利用者を雇用する立場の權(こん)絵理加所長(36)は、魅力的な自主製品の開発やさらなる販路開拓を進める実務面について取材の問いに淡々と説明している延長で、より口調に力がこもり変化したのは、「居場所づくり」におよんだ時だった。「『ここにいてもいいんだ』とメンバーさんにとって安心できる空間であることこそが、プティパの理想です」

「なかには休み方がわからない人もいます」という、權さんの言葉の意を、取材者がかみしめたうえで置き換えるなら「がんばらなくてもOK」ということになる。

東さんは「ただそこにいる」ことの大切さと難しさを痛感した経験を、プティパ10年振り返る広報紙記事の中で回顧している。

權さんと東さんの言葉の背景には、SEEDきょうとの理念が深く関わる。

前身組織の草創期にあたる2013年4月、代表だった精神科医の野間俊一さん(現理事)は、京都新聞の取材に対して女性が圧倒的に多いという摂食障害の当事者について、次のように語る。

「いわゆる『いい子』です。人の評価を気にする。完璧主義者の人が気持ちを抑え込んでしまいます」と語っている。ダイエットで努力すれば報われることを、体重計の数字で安心する。コントロールが行きすぎると拒食、達成できない反動として過食に至る「表裏は一体」だという。

「小さな一歩」を意味するフランス語から名づけられたプティパが発行するパンフレットは、ゆったりくつろげる「居場所」について大きなスペースがさかれている。

「自分らしい生き方を一緒に考えていきます」とのメッセージの下に、「メンバーさん同士のおしゃべりやゴロリと横になって自分の時間を過ごしたり休憩をとる練習をしたり…」との文が続く。

「休憩をとる練習」とパンフレットにつづるプティパのあり方は、福祉事業所にとどまらず他の民間企業にも通じることを投げ掛けている。業務効率や生産性が最優先されるさまざまな職場で自分の居場所と葛藤(かっとう)する人たちに重く響くだろう。

SEEDきょうと
2011年に精神科医など臨床治療に当たるメンバーが摂食障害者支援の活動を立ち上げ、後に15年にNPO法人化。13年から活動を始めた「プティパ」は17年に就労継続支援B型事業所に指定された。21年に訪問看護ステーション「らぐれーぬ」を開設した。一般向けに講演会やシンポジウムも開催している。京都市下京区西八百屋町。