ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

経済直結の政治的問題

2024.04.01

  • ふくしナウ

《 ビジネスケアラー 》

 2022年の就業構造基本調査によると、家族などを介護しながら働いている人の数は全国で約365万人とされています。経産省はこの調査における「仕事が主な者」を「ビジネスケアラー」と定義しており、全国で274万人、京都府内にも6万人を超えて存在します。今後さらに増加し、30年には318万人と予測=表※3。仕事と介護の両立困難による生産性損失や介護離職による代替人員採用コストといった経済的損失額は約9兆円超と試算されています。同省は問題に対応すべく検討会を設置し、ビジネスケアラー支援ガイドラインをまとめました(3月26日)。介護が福祉問題としてだけではなく、経済問題としても政策議論の俎上(そじょう)にあげられたことには特段の意味があります。世間の関心の高まりに加え、社会として看過できない待ったなしの政治的な問題であることの表れと言えるでしょう。

 人生100年時代といわれる社会では、介護やケアと無関係な人は存在しません。直近1年間の介護離職者は10万人を超え=表※4、ビジネスケアラーは暮らしに身近な存在です。育児に比べ介護は先の見通しが立ちにくく、期間も長期化する傾向にあります。育児・介護休業法のようにビジネスケアラーを支える制度もありますが、利用率は低く、十分に認知されていません。実態把握も不十分なため、企業の対応も追いついていません。さらに「介護は家族がするもの」という認識も根強く、困っていても周囲に相談できず孤立するケアラーもいます。

 企業では、実態調査の実施やテレワークなど柔軟な働き方の採用、社内に相談窓口を設ける動きもあります。地域に目を向けると、ケアラー支援に取り組む当事者の会や集いが広がりをみせています。また、ケアラーを政策的に支援しようとする25の自治体で条例化が達成し、京都でも「ケアラー支援条例をつくろう! ネットワーク京都」といった市民運動も始まっています。

 ただ、不安もあります。経産省が「ビジネスケアラー」というワードを使って打ち出す解決策の一つは保険外サービスの開発というケアサービスの市場化促進です。この方向性は当事者の介護実態や地域でのケアラー支援の広がりという現実との乖離(かいり)が否めません。市場化されたサービスの購入によって仕事と介護の両立を図るという方法は本当に働くケアラー支援として社会からの要請に応え得るものになるのでしょうか?注視したいと思います。(大谷大学准教授 大原ゆい)