ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「開かれた交流の場」願う

2021.03.01

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社会福祉法人「ミッションからしだね」/理事長 坂岡 隆司さん

3月に予定している書店の開店に備え書棚を整理する坂岡隆司さん(2月16日、京都市山科区・からしだね館)

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

 自分と異なる意見には耳を貸さず、同じ考えの人々とだけつながり、違いを認め合おうとしない。世界全体に不寛容な空気が漂い、この先さらに分断や孤立が進まないかと、危惧しています。

 「ミッションからしだね」は、精神障害のある人たちを主な対象に、就労や生活の支援を行っています。険しい世相の中で事業を通じ、人々が違いを認め合い差別や偏見のない寛容な社会の実現に寄与していくつもりです。

 からしだねの事業はワークス(就労継続支援A・B型事業所)と、センター(地域生活支援)の2本立てです。約40人が働くワークスは、配食サービスや印刷・製本、環境調査などを行い、センターは相談支援を中心に活動しています。

 事業拠点「からしだね館」(京都市山科区)の1階にあるカフェ「トライアングル」は、障害のある人たちの就労の場であり、誰でも出入り自由な交流の場。一般のお客さんが、自然なふれ合いを通じ、障害への理解を深めてもらえればと願っています。

 私たちが「開かれた交流の場」にこだわったのは理由があります。2004年、最初に伏見区内に精神障害者社会復帰施設の開設を計画して京都市の補助も決まった段階で地元の反対に直面したのです。「そんな施設は怖い」「子どもがいるので不安」。理由を聞き、精神障害に対する一般の理解の低さを痛感しました。

 計画が白紙に戻り私たちは逆に闘志がわきました。「無理解を克服するためにも必ず実現させよう」。計画を練り直し適地を探し続けた末、06年にオープンしたのが「からしだね館」でした。

 私は高校1年で聖書を知り、クリスチャンになりました。10代、20代は失敗や挫折も経験して人生に迷うことばかりでした。30歳の時、京都で高齢者施設などを運営する社会福祉法人に就職。そこで、精神障害がある人の社会適応訓練をする「職親」の活動に関わったのがきっかけで、遅れているこの分野の福祉充実へ、独立して乗り出す決心をしたのです。

 「聖書は足の裏で読め」というある牧師の言葉が背中を押してくれました。

 今回のコロナ禍は、カフェの休業などマイナス効果の一方で、事業に新局面を開く契機にもなりました。昨春、医療機関などへマスクや手作りガウンを届ける活動を始めた際は、難民や在留外国人を支援している大阪のカトリック系団体に声をかけコロナ禍で困窮している人たちに作業を依頼。製作協力金という形で支援を届けることができたのです。

 本の文化を守ろうと、コロナ禍で閉店したキリスト教系の老舗書店(上京区)を私たちが引き継ぎ、3月から「からしだね館」でブックカフェとして再始動させることも決めました。

 市場原理がなにかと幅を利かす今の時代、あえて落穂を拾うことの大切さを思います。

さかおか・たかし
1954年、鳥取県生まれ。公務員を経て、京都市の社会福祉法人「フジの会」に20年間勤務。仕事を通じ、障害のある人の社会参加を支援した後、独立して有志と「ミッションからしだね」を設立。2006年から精神障害のある人を対象に山科区で就労と相談の支援事業を続けている。著書に「一粒のたねから」(いのちのことば社)など。