ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

在宅医療におせっかいの心

2024.04.01

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医療法人社団「都会」/理事長  渡辺 康介 さん

渡辺西賀茂診療所で、小原章央所長と村上成美マネジャーから1日の報告を聞く渡辺康介理事長=中央(京都市北区)

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

患者さんの病気だけを診るのではなく「暮らしまで含めたその人間像全体を理解したうえで治療に当たりたい」。私が医師として、一つの立脚点を見いだしたのは、勤務医を経て長岡京市で開業した1991年ごろでした。

地域で唯一の泌尿器科開業医だったため、往診依頼を数多く受けました。往診は、病院と違い医者と患者が人間対人間として向き合う場です。生活の様子をのぞき、自慢話や愚痴も聞くうち、人間像が見えてくる。親しく顔を突き合わす人間関係を好む私の性分にも合致して、在宅・訪問医療の魅力と奥深さに目覚めました。

「都会(みやこかい)」の中心施設「渡辺西賀茂診療所」は、私のそんな思いをもとに97年、開設しました。長岡京市から故郷の上賀茂や西賀茂地域に帰ってみると、在宅での医療や介護を必要とする人は増える一方でした。ならば「住み慣れた地元で親しい人に囲まれ、療養したり介護を受けられるよう支援したい」と考えたのです。

小規模なデイケアからスタートしましたが、診療所に寄せられる地域のニーズは医療、介護とも多岐にわたり、提供するサービスは急速に拡大。現在は、医療系で訪問看護や訪問リハビリなど5種、介護系ではデイサービス、ホームヘルプ、グループホームなど5種の計10種に及びます。常勤訪問医師6人を置く診療所は、さらに支援機能を強化。在宅の患者さん約600人に、24時間・365日対応する体制を整えました。

患者、利用者さんに都会が果たす三つのクレド(約束)のトップには「おせっかいの心」を掲げています。これは、25年前に入社した村上成美看護師(現・事業統括マネジャー)が実践して私たちの組織に定着。後続者が次々に現れることになった理念です。

村上看護師は訪問する患者さんの願望に徹底して応えようとします。看取(みと)りが迫った人の「潮干狩りに行きたい」「息子の結婚式へ」という思いに気付くと、何が何でもかなえてしまう。採算も打算もないいちずな行動は誰も止められません。ある時、患者さんの方から「あんた、おせっかいやなー」と言われたそうです。必要なら踏み込んでいく気概。在宅医療の神髄がそこにあると信じます。

私は上賀茂の農家に生まれ、医師になる望みを諦めきれず2年間浪人しました。都会のスタッフ180人をはじめ多くの人に支えられ、地域密着型の事業を確立できたのは幸いでした。事業の母体になったのは85年に妻の都美が開いた渡辺医院です。妻は学生結婚した同級生。今も院長を務め、地域の患者さんを集めて緊密な関係を築き、都会の発展に寄与してくれています。

小規模ながら専門職を多数擁する私たちの診療所は、在宅医療、介護ともワンストップの対応が可能です。これからも、困難事例をあえて困難とせず、行き場のない人たちの最後の砦(とりで)であり続けるつもりです。

わたなべ・こうすけ

1948年、京都市生まれ。泌尿器科医。府立医大卒。済生会京都府病院勤務中の85年、妻が渡辺医院を開業。自らは長岡京市で開業の後、97年に在宅医療の渡辺西賀茂診療所を開設。医療系と介護系で多種の事業を展開する。2011年から医療法人社団都会理事長。全国在宅療養支援医協会理事。京都薬科大学客員教授。