ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

伴走し、心の声を傾聴

2024.07.01

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「臨床層の会・サーラ」/代表 佐野 泰典 さん

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「傾聴によって、わずかでも相談者さんを勇気づけられたら」と話す佐野泰典代表(京都市上京区の法輪寺)

 医療や福祉の社会基盤が整っている今日、カバーできない分野はまだあります。重い病気や障害、とくにがん患者さんとその家族の悩み、苦しみを受け止める心のケア体制は十分とはいえません。

 「臨床僧の会・サーラ」は、年齢も宗派も異なる僧侶十数人のグループです。悩み苦しむ人に寄り添い伴走しながら、心の内から発せられる声に耳を傾ける(傾聴)ことで、「わずかでも気分が和み、勇気づけるお手伝いができたら」という思いで一致しています。

 結成の2011年は東日本大震災が起こり、被災者に寄り添う心のケアが叫ばれました。私たちも傾聴や介護などに通じておくための勉強会を重ねました。病院や施設で活動できる公的資格として、ホームヘルパー2級の資格を取得しようと、皆で夜間講座に通ったのもそのころでした。

 現在の活動は主に、病院や施設での傾聴、寺などで開く「緑蔭」(個別相談や傾聴)、がん患者会・がんサロンへの参加、自主研修会の四つです。患者さんの自宅や福祉施設を訪れることもあります。聞いた内容は秘守、布教活動は行わず料金も要りません。

 「緑蔭」は静かな環境で、思いの丈を聴かせてもらう活動です。修行時代の私の師、河野太通老師(妙心寺派元管長)に揮毫(きごう)いただいた看板を、各メンバーの自坊に掲げます。茶をたて、一対一で傾聴。茶の効果は大きく、他には明かさない悩み、苦しみを、医療者でも家族でもない私たちに吐露される相談者は少なくありません。

 病院として最初にご縁をいただいた京都岡本記念病院(久御山町)の緩和病床で始めた「緑蔭」は、コロナ禍の中断を挟み9年目。病院スタッフによる患者看(み)取り後の会議に私たちも加えていただくなど、ありがたい協力関係を築いています。

 ある病院での傾聴で、こんなことがありました。末期がんの強い痛みを訴えられた女性は、浮き出た背骨がベッドに触れ「これも痛い」と苦悶(くもん)されました。私は思わず背骨の下に手を入れしばらく腰をさすってあげました。女性は後日、「あれで、すごく楽になった」と看護師さんに告げたそうですが、1週間後に亡くなりました。

 通常の傾聴活動で相談者に触れることはありません。私は「わらじ医者」で知られる故早川一光さんを囲む勉強会に毎回参加して、手当ての要諦を教わっていました。「実際に手を取り体に触れること。それが心に触れることや」。教えがとっさの行動になったのでした。

 傾聴を続けて分かったのは、気の利いた説教やアドバイスは無用だということ。できるだけ多く話してもらい、心をほぐしてその日の安心につなげてもらうのが最良です。相談者さんに「ならば、行ってみるか」と、一歩を踏み出してもらえるよう、これから私たちも自己研さんに励み、傾聴の中身を充実させていくつもりです。

さの・たいてん

1962年、福知山市生まれ。花園大卒。臨済宗祥福寺僧堂(神戸市)で修行の後、京都市上京区の法輪寺(通称「だるま寺」)副住職を経て2003年から住職。11年、僧侶の有志と「臨床僧の会・サーラ」=075(954)1005=を結成。府がん患者団体連絡協議会代表理事。