2021.12.20
2021.12.20
農業や伝統産業と福祉の連携
障害のある人の就労支援や生きがいづくりを模索する福祉施設が多い中、異分野との連携に活路を見いだすところも増えている。京都新聞社会福祉事業団も積極的に後押ししており、後継者難に悩む伝統産業と担い手不足が深刻な農業との連携を着実に進める京都市内の2事業所を訪ねた。
京都市北区の「西陣工房」は15年前に就労継続支援B型事業所の指定を受けた。高齢化などによる後継者難で糸繰り業や縦糸をそろえる整経業が減少する伝統の織物産地・西陣にあって、手仕事の技を高めて後継者を育て、市場価値の高いものを作って高賃金を得ることを提唱する。技術や営業は産地から指導を受け、約30人が手織りやジャガード織りの西陣織、京組みひもに取り組んでいる。同事業団もこれまでに織機や糸繰りの機材購入費などを助成。今では西陣最大の糸繰り事業所として認知され、業界に貢献している。
コロナ禍の昨年はシルク製の高級マスクを開発し、1万枚を売り上げた。今年4月には同区に3階建ての新工房を建設、移転した。ショールームを兼ねた地域交流スペースを設け、これまでも行っていた修学旅行生向けの組みひも体験も受け入れる。
伝統産業との連携を「伝福連携」と呼ぶ河合隆施設長(65)は「一人一人の可能性を開き、やりがいと希望を持って伝統産業の担い手になってくれれば」とし、地域との交流や合宿、ハイキングなど家族的ふれあいにも力を入れる。ウクレレ演奏や卓球バレーなど集団活動も注目を集めている。
京都市伏見区の「深草福祉農園」は約30年前の作業所開設時から農作業を主とし、現在、知的障害のある人が職員と一緒に2カ所計約2千平方の畑で季節野菜やサツマイモ、タマネギを栽培。採れたて野菜を週2回、直売している。畑の一つは木津川市内に借りており、一昨年に同事業団から贈呈された軽トラックの「福祉号」を農機具や収穫野菜の運搬に活用、重宝しているという。
農業との連携、いわゆる「農福連携」について、施設長の小野直樹さん(50)は「一般的には、福祉分野で引き受けられる仕事の種類や量が少ないので農業をという側面と、耕作されていない放置農地の活用という狙いがある」としたうえで、「私たちは都会地での農業のあり方や地域の中で住民と関わりを持って障害者が生活することも模索してきた」と語る。
昨年来、コロナ禍でバザーや地域の祭りが中止になり、野菜販売は減少、地域コミュニティーとふれあう機会も減ったという。しかし、小野さんは「別の福祉団体や他の仕事の発注元の協力で野菜を売らせてもらう機会ができたり、新しい付き合いが開拓できて自分たちの活動を知ってもらったのはメリットだった」と振り返る。
農作業のほかに、紙箱作りやアルミ缶リサイクル回収なども行っているが、屋外でのびのび働ける農作業を中心にして「働きがいを感じる毎日づくり」を目指す。
同事業団は、福祉団体や施設に50万円を上限に助成する「京都新聞福祉活動支援」と「工賃増へ向けての取り組み助成」を今月27日まで受け付けている。これらの事業には「京都新聞歳末ふれあい募金」などへの寄付金を活用する。