2020.06.08
2020.06.08
中川 (なかがわ)徳子(のりこ) さん
高機能自閉症やアスペルガー症候群など、目に見えにくく個人差のある発達障害。障害のある子どもの親は、さまざまな悩みを抱えている。「親が元気になれる場が必要」との思いで活動する親の会「ONLY ONE(オンリー・ワン)の会」代表、京都市伏見区の中川徳子さん(55)は、長男が小学3年生の時に高機能自閉症とわかり、子育ての悩みを共有したくて2003年に会を立ち上げて活動している。
親の悩みはみんな同じではない。「ものすごくおしゃべりだったり、全然しゃべらなかったり、攻撃的な子もいれば、言われるまま行動する子もいる。千差万別なので、いろいろなお母さんが参加して交流することで、共感できる部分や学べる部分がある」
中川さんの長男は、乳幼児のころから昼寝をしなかったり、ザラザラした素材の服を嫌がるなど感覚過敏があったり、健診でも言われた通りに積み木が積めなかったりして、育てにくさを感じていた。だが、当時は発達障害という言葉もなく、保健師にも「心配しすぎ」「愛情不足」と言われ、困っていると受け止めてもらえなかった。長男はこだわりが強く、思い通りにいかないと手も出てしまうため、小学校では友達とのトラブルが増えた。「あの子とは遊ぶな」と周囲の母親からも避けられ、自分も孤立してつらく、ほこ先が長男に向いて責めてしまう日々だった。
「さしすせそ」がうまく言えない構音障害の診断を受けたことがきっかけで、ようやく高機能自閉症と判明。「困りがちな毎日は、私のしつけのせいでも、長男の性格のせいでもなかった。脳機能の問題なんだ」とホッとし、トンネルの先に明かりが見えた。市児童福祉センターの保護者学習会に通う中で、ほかの保護者もたくさん話したいことを抱えていると知り、学習会の後に交流会を企画。その流れで、親の会を立ち上げた。
3カ月に1回の会報と月1回の定例会が活動の中心で、定例会には、悩みを抱えた人や聞きたいことのある人が参加する。情報を交換し、子どもの成長の喜びを共有する。「上靴をちゃんと持って帰ってきた、というような私たち親子にとって大きな喜びも、高学年ならできて当たり前。学校のお母さんたちと、なかなか喜びを共有できない。一緒に喜んでくれる仲間がいることは大きかった」。最初は泣きながら話を始め、帰る時にはすっかり笑顔で「明日から頑張ろう」と思えることが何度もあった。
当初20人ほどだった会員は、多い時には約360人あり、現在は約110人。発達障害や高機能自閉症への認識が広がり、地域で相談できる場が増えたが、乳幼児期や学齢期、そして社会人などさまざまな段階での子育ての実態を当事者目線で伝えられるのが同会の魅力だ。近年では、不登校をきっかけに会の扉をたたく人も多い。「困りごとは子どもの年齢によって変わるため、一時期落ち着いたと思っても、進学や就職など環境が変われば、また新しい悩みができる。私たちが長年かけて築いてきたものを共有し、親も一緒に学びあい、育ちあっていきたい」
(フリーライター・小坂綾子)