ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

売れる菓子店へ 共に追求/障害者交流 魅せられて転職(20/08/10)

2020.08.10

  • わたしの現場

藤田 (ふじた)公智(まさのり) さん

人気商品などについて施設利用者と話す藤田公智さん(左)=京都市左京区・茶山sweets Halle

京都市左京区の叡山電鉄茶山駅近く、小さな洋菓子店「茶山sweets Halle(スイーツ・ハレ)」をのぞくと、京都産の素材を生かしたお菓子がずらりと並ぶ。美山(南丹市)のハチミツを使ったマドレーヌ、米粉のバウムクーヘン、宇治田原産の抹茶のフィナンシェ。ていねいな商品説明としゃれたパッケージで、子育て中の女性らに人気を集めている。

ここは、社会福祉法人修光学園が運営する就労継続支援B型事業所「ワークセンターHalle(ハレ)!」の併設店。施設長を務めるのは藤田公智さん(47)だ。同センターは知的障害のある人31人が利用し、紙箱加工と製菓部門がある。

「製菓で大事にしているのは、商品のレベルを上げること。障害者がやっているから、ではなく、おいしいという理由で通ってもらえるようなお菓子屋さんとして評価してもらいたい」

店内に設けられた大きな窓からは工房が見える。近所の人や子どもたちが何げなくのぞいた時に働く姿を目にしてもらえたら、との思いからだ。生地を作ったり、固いバターをたたいて柔らかくしたり、利用者は作業にいそしんでおり、店頭に出て接客する人もある。

福祉の仕事にすっかり魅せられている藤田さんだが、前職は塗料会社の社員。大学で化学を学び、就職したのちに転職した経歴の持ち主だ。福祉との出会いは大学時代の学外ボランティア活動だが、「キャンプのお兄さん」になりたくて、たまたま募集があったのが、障害のある人とのキャンプ活動だったという不思議な縁。就職後も活動を続けるうち、キャンプアドバイザーとしての時間の方が面白くなり、転職した。

「知的障害のある人とキャンプで関わる中で、その人の思いがわかる瞬間に出会えた時はとてもうれしく、企業での仕事よりも魅力的でした」。利用者も、自分の思いが伝わると喜びの表情に変わる。そんな表情を見られることが、やりがいの一つだ。

修光学園でのアルバイトからスタートし、法人の別事業で、陶芸やクラフトのサポート、パン作りも経験した。そして2017年に「ワークセンターHalle!」が開設され、施設長になった。「福祉を知らず、化学の知識しかない状態からの出発だったけれど、企業での経験が役立っている」と感じることがある。消費者目線を大事に、「お店だから、ちゃんとお店らしく」という感覚を忘れないでいられることだ。

売れるお菓子屋さんでいられるために、努力を惜しまない。パソコンに詳しい人から教わり、デザイン性の高いパンフレットを自ら作製。消費者の感覚が「おいしいから」に変わってもらえるよう頭をひねる。それもひとえに、利用者が1人暮らしをしたり、携帯電話を持ったり、自己実現できるだけの工賃を生み出すためだ。

自分たちの作ったものが売れるうれしさは、利用者もスタッフも同じ。「仕事って、モチベーションを低くすることも、楽しくすることもできる。どうせなら、中途半端よりもいいものを作りたいし、楽しい方がいい」。大事なモットーを、利用者たちと共有している。

(フリーライター・小坂綾子)