2021.08.23
2021.08.23
黒川 美知子(くろかわ・みちこ)さん
社会参加が困難な状況にある若者やその家族と歩む団体が、宇治市にある。若者の社会参加を応援する会「実のり」。代表を務めるのが黒川美知子さんだ。「大人になっても家から出られない人は、思春期から二重三重につらい思いをしていることも多い。対人不安や社会不安を抱える人が孤立しないでその人らしく生きられるように」。そんな思いで活動する。
原点は、わが子が不登校だった黒川さんらが1993年に設立した親の会。家を出られない若者を支援する活動に発展させ、仕事を提供し、同市内で例会や相談会を開いている。会員は京都府内外の本人や家族十数人で、これまで関わった百数十人に会報を送っている。
居場所づくりではなく、「仕事」が中心の団体だ。「最初は場所があれば解決すると思っていたけれど、本当にしんどい人は何をしても来られない。そこで家族会のお子さんにアンケートを取ると、『働きたい』という声がたくさんあって」。ポスティングの会社から冊子の間にチラシを挟む仕事を請け負い、自宅でも仕事ができるように若者の自宅に定期的に届けると、仕事を励みに元気になった。そこで、府のひきこもり相談の対象者に声をかけると、「やりたい」人がたくさん集まった。「府の担当者から『ひきこもりの人は仕事をする気がないのでは』と言われたけれど、違いました」
その後も、同市内6万世帯に配る赤い羽根共同募金の募金袋とチラシの仕分けを同市社協から毎年受託。若者たちは「仕事だから」と会場に足を運ぶようになり、顔を上げて歩くようになったり、自信がついてアルバイトに行けるようになったりした人もあった。
大事にしているのは、「一人前の報酬で自信をつけてもらう」こと。時給は千円前後を払えるよう、見積もりを立てる。表彰式で渡す盾を包装紙で包む仕事を頼まれれば、事前に包装の専門家から講習を受けてもらう。「真面目に仕事されるので、依頼先からも信用されています。私たちの働きかけは少しのきっかけであり、みなさん自分の力で動かれる。実のりのおかげではなく『自分の力でここまできた』と思える支援にしたい」
ただ、変わっていく人もあれば、ずっと家を出られない人もいる。「出てくることが支援の到達点なのか」という疑問が生まれ、実のりは新たな課題に取り組み始めている。「外に出ても、家にいても『マル』。どこにいようと力を発揮でき、自分の価値を認められる生き方ができるように」。在宅仕事を増やすため、和紙の一筆箋作りのほか、ミシンの技術を習得してもらい、小物の販路開拓にも努める。
「『変わらなければ幸せになれない』と思うと、変われない若者は自分を責めて苦しみ、親もわが子が変わってくれないことを悩みます。けれど、変わらなくても、在宅でも孤立しないような社会の側のアプローチがあればいい」。今年、若者20人にアンケートを送った。返ってこない人もあるけれど、それでいいと黒川さんは言う。「自分の元に届いた。自分の意見を聞きたい人がいる。書くか書かないか選べる。そのことが、大きな意味をもつのです」
(フリーライター・小坂綾子)