2021.12.14
2021.12.14
佐々木 健介(ささき・けんすけ)さん
宇治市西笠取の総合野外施設アクトパル宇治。屋根付きの炊事場に、にぎやかな声が響く。障害のある子とその親たちが外遊びを楽しむグループ「ツチノコ野外倶楽部」が5日に開いた忘年会だ。料理が出来上がり、代表の佐々木健介さん(54)がダッチオーブンのふたを開くと、参加者から歓声があがる。「好きなことをやってるだけで、来ても来なくてもいい。決まりがあるとじゃまくさいんですよ」と笑う。
平日は、京都市北区で放課後等デイサービス「ノーザンライツ」の代表を務め、ここでも外遊びに取り組む佐々木さん。幼少期から山や川に親しみ、自閉症の息子が生まれてからも、一緒に自然の中に出かけていた。
グループの活動が始まったのは2008年。障害のある子を育てる3家族で山登りなどを楽しむようになったのがきっかけだった。
全体活動は月に1、2回。自由参加で、京都や滋賀、奈良各県などから毎回30~60人が参加する。自閉症やダウン症などさまざまな障害のある子や家族らが、幼児から60代まで、「外遊びが好き」で緩やかにつながっている。
活動場所は主に、京都府や兵庫県などの山や川や海。電動車いすの子がカヤックに、難病のドラべ症候群の子が馬に乗ったこともあり、初めての体験をする親子も多い。今年の夏には、感覚過敏でシャワーも苦手な子がびしょぬれになってカヤックを楽しみ、「水が怖かったはずなのに」と母親を驚かせた。「怖いな、しんどそうだなと思うことも、それを上回る楽しさがあれば子どもたちはできる。『どうせ無理』と思わずに、やってみてほしいのです」
活動の中で大事にしているのは、「親子別々に楽しむ」ということだ。あえて離れてもらい、同じ山に登っても、足の早い子は早い大人と、ゆっくりの子はゆっくりの大人と歩く。「親はつい先回りするけれど、『ここに足置きや』『ここ持つんやで』と言われると、子どもは考えなくなる。遅くてもいいから自分で足を置き、滑ったら体を立て直す経験が大事」
かまわれるとプレッシャーを感じて動けなかったり、親と2人だと歩かないのに離れたら歩けるようになったりする場面を、何度も見てきた。「子どもを任せる」ことに慣れてもらい、母親、父親同士で話す機会も増やしている。「何でも親がやるのが愛情という風潮があるけれど、子どもにとってもしんどいし、子育てに悩む親が一人で抱え込めば深刻な事態を生んでしまう。みんなで楽しくごはんや山の話をする中で、親子が程よい距離感を保てるようになれば」
活動がきっかけで、登山が趣味になった親が友達同士で出かけたり、鉄道好きの子ども同士で新しいグループ「テツノコ」を作って自分たちで泊まりに行ったり、広がりも見せている。「ツチノコでは、『こんなに面白いことができるよ』と一緒にやりながら伝えるだけ。あとはそれぞれ好きなようにやってくれって思ってます」
本格的な野外活動でありながら、決まりのない自由な場。そして親も子も、楽しみながら学び、挑戦できる「ツチノコ」。夢は、「みんなでヒマラヤトレッキング」だ。
(フリーライター・小坂綾子)