ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

仲間と楽しく、成長促す/カフェで障害者自立支援(22/04/18)

2022.04.18

  • わたしの現場

西土 幸秀(にしど・ゆきひで)さん

メンバーと一緒にスムージーを提供する西土幸秀さん(左)=7日、京都市北区小山元町・スムージーハウス パッソ

 ガラス張りの明るい店内にミキサーの音が響き、小松菜とミルクのみずみずしい緑色のスムージーが完成する。地下鉄北大路駅から徒歩約10分の京都市北区の「スムージーハウス?パッソ」は、障害のある利用者が店頭に立つ就労継続支援B型事業所。忙しくなるとお手伝いをするのは、支援員の西土幸秀さん(37)。「新しい価値を生み出し、メンバーさんにいかにわかりやすく伝えるか。そして、ただやってもらうだけでなく、楽しさとやりがいを感じてもらうことを大事にしています」

 パッソは、障害のある青年の自立訓練事業に取り組むNPO法人「プエルタ」が開設し、障害のある人ら12人が、カフェの業務のほか、自主製品の製作や下請け作業、畑作業などをして過ごしている。

 提供するスムージーは現在10種類ほど。京野菜を使ったり、冬場はポタージュにしたり、季節限定品もあり、基本的に利用者が作ってレジや接客まで担う。メニューは、利用者や職員がアイデアを出して試作。新しく野菜果物の乾燥機も導入し、無添加の「りんごチップス」も発売したほか、新商品としてみそ汁の具材を開発中だ。

 大阪の生活介護施設での勤務を経て、結婚を機にプエルタに入職した西土さんは、2年間パッソの施設長を経験。その後、家庭生活を重視するために育児時短での勤務を経て、現在は家庭生活とのバランスをとりながらフルイムで働いている。「育児時短を経験したことで、自分の価値観や足りないものを見つめることができ、職場環境の重要性にも気づきました」

 経営と福祉の両立の課題がつきまとい、悩みも多い仕事。だが、利用者と一緒に喜べることに、やりがいを感じる。「きれいに仕上げた商品がお店に並び、自分が作るものにお金を払ってもらう。そんな経験の積み重ねが自信や力になります」。お客さんと緩やかな関係を築けるのもここの魅力。ドアを隔てた施設には足を踏み入れにくくても、店の空間でつながれる。

 心がけているのは、なるべく失敗が生まれにくい仕組みづくリだ。スムージーの作り方を視覚的にし、小物を置く場所を変えない。伝わりやすさは利用者ごとに違うため、それぞれに合った具体的な方法を全職員で共有している。

 「安心して通えて、いつでも戻って来られる場所に」という思いから、仲間づくりも大事にしている。社会的スキルを身につける訓練や、講師を招いて本物にふれる芸術や音楽の活動もある。「一緒に楽しいことをした仲間の存在は大きく、支援者との関係からは生まれない成長の力が生まれます」。職場を離れても付き合いがあり、利用者や卒業生は、「男子会」と名づけた同窓会などで交流している。

 実感しているのは、障害者が味わう社会的不利は社会の問題だとする「社会モデル」の考え方だ。「学生時代に学び、今も度々立ち返ります」。大事にしていることは変わらないけれど、一方で、自身の変化を感じている。自分の力を過信してがむしゃらに働いていた20代とは違う。経験を積んで自身を見つめ直した今、思うことは – 。「もっと勉強したいですね」

(フリーライター・小坂綾子)