2022.09.13
2022.09.13
湯浅(ゆあさ) あやのさん
2匹の小型犬・トイプードルが、飼い主である湯浅あやのさん(57)=長岡京市=の目を見つめ、声に耳を傾ける。「りえる」と「バジル」。犬と飼い主が福祉施設や学校、病院などを訪れて活動する認定NPO法人アンビシャス(京都市中京区)のセラピードッグだ。「犬と過ごして笑顔になったり、会話が増えたりする人もある。犬のもつ力はすごい」。同法人の理事を務める湯浅さんは、そう感じている。
アンビシャスは1999年、トレーニングされた愛犬と一緒に社会貢献しようと、飼い主たちが任意組織を立ち上げたのが始まり。ドッグセラピーという言葉もない時代で、活動はなかなか広がらなかったが、2004年に法人化してニーズが高まり、累計活動数は2000回を超える。
現在、コロナ禍で高齢者施設への訪問は止まっているが、障害者施設などでのドッグセラピーや、学校などでのいのちの授業、「ペットと防災」をテーマにした活動に取り組む。メンバーは24組で、すべて専門的なトレーニングを積んだ飼い主と犬たちだ。
初めての場所で、初めての人に触られるセラピードッグは、盲導犬や聴導犬のトレーニングとはまた違った難しさがある。飼い主との信頼関係が鍵で、「飼い主が行くところは安心」「飼い主と一緒なら楽しい」という感覚を身につけられるようにしつけていく。
湯浅さんとドッグセラピーの出合いは、13歳の「りえる」を飼い始めた頃。しつけの方法を教わった人が同法人のメンバーで、訪問に参加するようになった。「福祉に関心がなかったけれど、訪問が楽しくて。活動から大事なことを教えてもらった」と振り返る。
認知症のお年寄り、命の終末を迎える人、怒りっぽい症状が出る高次脳機能障害の人など、心穏やかでいることが難しい人たちが、犬との時間を過ごすことで精神的に安定するケースを、湯浅さんは見てきた。「犬がいることで、私もだれかの力になれる。本人を支える家族の助けにもなれると知ったことは、大きかったですね」
15年から毎年訪問している宇治市の京都医療少年院は、「変化」を実感できる施設の一つだという。セラピーの対象は、心身に著しい障害がある少年たち。最初は人の顔を見て話すのが難しかったのに、懸命に犬とコミュニケーションを取ろうとしたり、「どうすればいいの?」と飼い主にたずねてきたり。「犬は先入観をもたないので、少年たちも素直になれるのかな。生活や心が落ち着く子もあり、法務教官が驚かれます」
近年は、災害時にペットと避難するための普及活動にも力を入れている。「犬を残せなくて避難しない人もあり、そういう人を支えたい。大事なのは、日頃から飼い主も犬も地域の人と一緒に生きていること」。自主防災組織などの行事で、かわいがりだけではないしつけの意義や、避難所でのペット受け入れの工夫、住民同士のコミュニケーションの重要性を伝える。
「人と動物が共生するまちづくり」を掲げるアンビシャス。犬を家族のように思う人も、犬が苦手な人も、違う立場の人のことを理解し、思いやれるように―。湯浅さんの胸にあるのはそんな願いだ。
(フリーライター・小坂綾子)