ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

丸ごと理解し、ニーズに対応/子ども専門の義股装具士(23/04/18)

2023.04.18

  • わたしの現場

益川 恒平(ますかわ こうへい)さん

子どもたちのために、さまざまな装具を手作りする益川恒平さん(6日、京都市上京区・ゆめ工房)

 京都市上京区の北野商店街の一角に、小児用補装具専門店「ゆめ工房」がある。代表の益川恒平さん(45)は、義肢装具士。障害のある子どもら一人一人に合わせた装具を、オーダーメードで作っている。「装具を使うことで立てるようになったり、歩くのが嫌いだった子が楽しく歩いて学校へ行くようになったり。子どもたちの成長を見守れることがうれしく、やりがいを感じています」

 義肢装具士になったのは、「得意なものづくりで人の役に立つ仕事を」という思いから。高校卒業後、4年間の模索期間を経て資格を取得。装具の会社に就職、結婚して子どもも生まれたが、離婚して2児を育てるシングルファーザーとなった。「父子家庭であることを隠し、定時帰宅で保育所に迎えに行く生活に疲弊して。その中で、ママ友や周囲の人に支えられて生かしてもらった感覚がありました」。再婚し、次は自分ができることを―という思いで、困っている子どもや家族のために一人一人と向き合う小児専門の義肢装具士として働くべく独立した。

 子どもの装具は、大人のサイズを小さくしただけではない。体つきが違い、日々成長する。「子ども時代に変形が進むと大人になって固定してしまう。この時期は大事で、その後の人生決まることもある」。毎年作りかえ、義肢装具士としての子どもや家族との付き合いは何年にもわたる。「体に触れ、生活の話を聞き、その子を丸ごと理解して本質のものづくりができる」と仕事の魅力を語る。

 注文は、足の部分をサポートする装具が主だ。身体障害のある子だけでなく、発達障害の子のインソールも増えている。「発達に凸凹があると、身体をコントロールしにくくインソールで歩行が楽になることも。ダウン症の子は体が柔らかいため、しっかり支えてあげると歩きやすい」。それぞれの特徴に合わせて製作する。

 「商店街で作る」ことも、こだわりの一つだ。「日常的に目にする場所に装具があれば、障害のある人に出会ったときの配慮の仕方はきっと違う」。困りごとを抱える人が足を向ける場所としての可能性も感じている。「商店街は本来、人と人とをつなぐ場所。障害のある人や高齢者、不登校の子などが必要とするものに目を向ければ、店が置くものも変わるはず。足を運びやすい『インクルーシブ商店街』が増えてほしい」。自分がつなぎ役になろうと、商店主や中小企業家同友会などに思いを伝える。

 当初は、「装具を作ればその子の人生が良くなる」と思っていた益川さん。だが今は、ものづくりの枠も超えて活動する。工房内には、特別な配慮や支援が必要な「スペシャルニーズ」をもつ子どもや家族の窓口となるサポートステーションを開設。ダウン症の啓発イベントなどを催す団体「At―Kyoto」と共同で、相談や情報提供、サービスや道具の紹介に取り組んでいる。「考えるのは、その子や家族が何を求めているのか、ということ。ニーズを知って、そのために自分ができることに取り組んでいきたい」

(フリーライター・小坂綾子)