ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

目指すは子の最善の利益/福祉と学校現場をつなぐ(23/05/16)

2023.05.16

  • わたしの現場

恒松 睦美(つねまつ むつみ)さん

カードゲームを楽しむ若者や子どもを見守る恒松睦美さん=中央(大津市・NPO法人あめんど)

 大津市の住宅街に拠点を構えるNPO法人あめんど。学校になじめなかったり、社会に出にくかったりする幅広い年代の子どもや若者が集い、カードゲームをしたり、自主製品をつくったり、昼食を楽しむ姿が見られる。居場所であり、フリースクールであり、子育て相談ができる場でもある。「雑居ビル状態です」と笑うのは、立ち上げメンバーでもある恒松睦美さん(55)。現在は草津市のスクールソーシャルワーカー(SSW)としても福祉と学校現場をつなぐ役割を担う。

 「親も安心、子も安心」をスローガンとするあめんどの出発点は無認可保育園だ。北米に滞在して帰国した恒松さん親子や保育士の資格をもつ仲間たちが、わが子のために始めたものだった。口コミで利用者が増える中、目の前の親子のニーズや成長に合わせて、フリースクールや居場所事業へと展開。事業の枠に人を呼び込むスタイルとは異なる。不登校の子、発達障害のある子、ひきこもりがちな若者などが利用し、現在は新しい就労のかたちも模索する。

 大学時代はバックパッカーとしてアジアや中東を巡り、多様な価値観に触れた。その経験もあり、「生き方に正解はない」というのが自身のモットーだ。家庭教師の仕事でさまざまな子に関わり、あめんど発足後、保育士や社会福祉士、精神保健福祉士の資格を取得した。

 SSWの活動は8年前から。「SOSも出せないほどしんどい親子に出会えるのは、学校なのでは」と思ったのがきっかけだ。あめんどに集う子たちと外の世界をつなぐ役割の必要性も感じていた。SSWとして教育と福祉に関わると、それぞれ視点が違うと実感する。「目指すところはどちらも子どもの最善の利益。だけど教育には高い目標があり、学校は『いま』のその子と向き合う。福祉は『生きてるだけでOK』の面があり、長期的な視野で家族全体を見る。視点を合わせるために、互いの立場を理解して伝える通訳者が必要」。学校、家庭、民間や行政、それぞれのできることも考え落としどころを探す。

 活動の幅を広げたメリットは大きい。学校現場の実情や教員の思いを知ることで、「伝わる言葉」を考え、福祉と教育のつなぎ方に工夫が加わった。子の不登校に悩む親に、あめんどに通う若者たちの成長話もできる。「わが子は大丈夫と思っていても、ランドセルを背負う他の子を見ると涙が出て、そんな自分に落ち込むお母さんもいる。親が悩んで葛藤するのは自然なこと」。一緒に苦しんでくれたことが、のちにその子の財産になっていくはずだと伝える。

 現場で感じるのは、「不登校だと社会性が身につかない」「好きなことが見つからなければ生きていけない」など「一見正しそうな」言説に苦しむ親子や若者が少なくないことだ。「でも、全然そんなことはない。自立のポイントは、等身大の自分を知り、受け入れること」。苦しい時期があっても、「孤独じゃない」と感じてもらえるように―。そんな思いで、目の前の一人一人を支える。

(フリーライター・小坂綾子)