ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「理由なく行ける」が重要/若者たちの居場所運営(23/10/23)

2023.10.23

  • わたしの現場

木村 友香理(きむら ゆかり)さん

「私たちが寄り添うことで、その人の力を引き出せるような団体になりたい」と語る木村友香理さん(京都市下京区・すずなりランタン)

 京都市下京区の梅小路公園近くで、ひっそりと営業する2階建てのカフェバー&レンタルスペース「すずなりランタン」。ここはカフェであり、若者や住民が安心して集える拠(よ)り所だ。運営するNPO法人「コミュニティ・スペースsacula」の代表を務めるのは、社会福祉士の木村友香理さん(31)。子ども食堂やシェアハウスの運営、自立・就労サポートなどの事業を通じて、子どもや若者が「達成」や「経験」を積める社会を目指している。

 「『どうせ』が口癖だったのに、できることが増えて若者がキラキラしていく。過程を見て私も力をもらう。一方的な支援でなく、一緒に挑戦や失敗もしながら自信をつけ、しんどいことから離れられる時間を重ねています」

 原点は、中学時代に不登校だった友人が適応指導教室で大学生に話を聞いてもらい、楽になったことだった。対人援助職に関心をもって児童館の職員となり、子どもの声を聞く中で、居場所への思いが強まった。「親が夜まで帰らず寂しかったり、『しんどい』って言えないことがしんどかったり。地域にもっと子どもが過ごせる場があればいいなと思って」

 2016年に西京区に任意団体を設立し、翌年から子ども食堂や学習スペースを始めた。LINE相談や不登校の子のフリースペース、若年女性の自立サポートシェアハウスなどの事業を次々始め、21年に法人を設立。昨年8月に、午前9時から午後10時まで営業するカフェバーと、その2階に子ども若者の秘密基地「すずらん」をオープンさせた。今後は、トランスジェンダーの人も含め誰もが安心して住めるよう、居住者が暮らしをサポートし合う「コレクティブハウス」の開設を目指す。

 saculaの理念は「『専門性』より『関係性』」だ。社会福祉士としてソーシャルワークの技術も持っているが、「ここでなら話してもいいかな」と思えることや互いの信頼関係を大事にする。

 「どこかの相談窓口に1度はつながったのに、自分を否定されたり一方的にアドバイスされたりして、気力を失ってここに来る子が多い。倫理的によくないことも背景を見るし、『ダメ』という言葉は使わないようにしています」。既存の「正しさ」に苦しむ若者が、劣等感から抜け出せる場所にもなれば―との思いがある。

 若者が集う理由は「寂しい」「家に居場所がない」などさまざまで、うまく言語化できない人もいる。saculaは「『何となく』でいていい場所」だ。通う中で胸の内を語り始める人もある。木村さんは「理由なくいつでも行ける」ことの重要性を実感する。自身の育ちにもしんどい部分があったが、相手のしんどさと重ねない。「決してイコールではないし、切り離すスキルは特に大事」。激励のつもりで「みんなしんどい」とも言わない。その人のしんどさをいかに小さくし、今後に目を向けられるかを考えている。

8年目に入り、強く感じるのは、「『みんな』や『当たり前』という言葉が、人を縛り、声を上げられなくする」ということだ。「そういうことで苦しまなくてもいい社会になってほしい」と願う。(フリーライター・小坂綾子)