ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

品質高く、作業は楽しく

2024.08.12

  • わたしの現場

秋山 牧子(あきやま まきこ)さん

印刷物の事業所デザイナー(24/08/12)

「福祉の仕事であっても、成果物を良くしていくことはとても大事」と話す秋山牧子さん(1日、大津市錦織2丁目)

 福祉の事業所で、デザイン会社が作るような印刷物を―。そんな思いをもって、大津市の就労支援B型事業所「いしづみ」で利用者を支えるグラフィックデザイナーがいる。職業指導の秋山牧子さん(52)。東京のデザイン会社での勤務経験を生かし、利用者と一緒にデザインの仕事に取り組んでいる。「自分の手がけた仕事で、福祉の大事なメッセージが伝わったり、福祉団体への寄付が増えたりすると、とても励みになる。利用者さんの働く姿に私もエネルギーをもらい、民間会社の仕事とは違った充実感があります」

 いしづみは、社会福祉法人いしづみ会が運営し、さまざまなグラフィックデザインの仕事を受注する。これまでに、大津市社会福祉協議会などの記念誌を作ったほか、福祉団体のチラシも作成。ホームページから注文できるオリジナル名刺や卓上カレンダーも人気を集めている。

 秋山さんがいしづみと出合ったのは、8年前のことだ。以前はグラフィックデザイナーとしてデザイン会社に勤め、有名企業の案件なども手がけていた。毎日不規則な生活だったが、夫の転勤を機に退職。同時期に出産した友人の子に障害があったことや、わが子の近くにハンディのある子がいたことから、「障害のある子が大人になったらどんな生活を送るのかな」と思うようになった。そんな時にいしづみのデザイナー求人を見つけ、扉をたたいた。

 いしづみでは、デザインだけでなく、進行管理などのディレクションも担う。冊子の製作では、依頼主から完成品のイメージを丁寧に聞き取って提案。利用者と分担して印刷までのデータを作りあげ、最終的な責任は秋山さんら職員が担う。利用者らは、文字起こしやパーツのデザイン、写真の調整や文字の流し込みのほか、印刷があがったカレンダーの大きさをそろえたり、リングをセットしたり、仕上げの作業をする人もいる。一人ひとりに合った仕事を提案するのも大事な仕事だ。

 心がけているのは、「民間会社での仕事と変わらないクオリティーに」ということだ。「福祉の事業所だから安くできるでしょ、こんなもんだよね、と思われない仕事をしたい。頼んでくださった方の期待に応えたいし、利用者さんのためにも、『いしづみに頼んで良かった』と思ってもらえるようにように」

 値引き交渉されることもあるが、「必ず良いものを作りますので」と適正価格に理解を求める。「利用者の工賃になるので、しっかり価格を確保するのも私たちの役割。理解してもらえて、出来上がったものに満足してリピーターになってもらえたときは、本当に嬉(うれ)しい」。高いクオリティーで、かつ、利用者が楽しく作業できるために、デザイナーとして、また福祉現場のスタッフとして、日々工夫を重ねている。

 数年後、子育てが一段落すれば、いしづみにしっかり気持ちを置いて仕事をしたいという思いがある。「完成品が目に見えると、利用者さんはとても喜ばれる。楽しくやりがいのある仕事を、もっと増やしていきたい」

(フリーライター・小坂綾子)