ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

京の地蔵盆サポーターズ・プロジェクト

2024.09.16

  • 広がる 地域の輪

「コミュニティーの宝」を守る

巡る地蔵・祠 人や地域つなぐ

 コロナ禍の期間中、縮小や中断を余儀なくされた町内会もある中、地蔵盆と夏祭りを体験する市民向けイベントが8月31日と9月1日、ゼスト御池地下街(京都市中京区)で催された。地蔵信仰の中心地・壬生寺(下京区)から運んだ地蔵が背負われて会場を進んだ。
 「お地蔵さんに市内を巡って観光してもらおう」と、京都文教大(宇治市)の教員らが地域協働研究「京の地蔵盆サポーターズ・プロジェクト」を企画した。同寺と会場間に点在する祠(ほこら)を歩いて巡るプロセスを映像でライブ中継するのが当初プランだったが、当日は台風が近づく悪天候のために地下街だけで実施された。
 企画したのは、同大学の実践社会学科講師で美術家として活動してきた谷本研さん(50)。「地蔵を運ぶことだけが目的ではありません」と谷本さんは話す。
 谷本さんは、京都市だけでなく大津市や宇治市などに残る地蔵や祠を巡って、地域共同体や町並み、景観などの変化を長年にわたって研究してきた。手法として重視しているのはフィールドワークだ。
 壬生寺―ゼスト御池間で地蔵を背負って運ぶプロジェクトを谷本さんは、これまでにも京都市が地蔵盆を「京都をつなぐ無形文化遺産」に選定した2015年に美術家中村裕太さんとのユニットで実施している。
 成安造形大(大津市)に勤めていた2000年代初頭には、大学に近い仰木地区の棚田や里山の風情が残る地域に点在する地蔵を教員や学生と巡った。

京都文教大によるプロジェクトで壬生寺の地蔵が地下街で背負われた(京都市中京区・ゼスト御池)

 今年度に京都文教大へ勤務先が移った7月下旬、宇治橋に近い伝統的な商店街が並ぶ中宇治地区を学生とフィールドワークし、約30カ所の地蔵の祠を巡ってマップを完成させた。
 ゼスト御池のイベントで9月1日、谷本さんはこれまで京都、大津、宇治で地蔵を巡ってきた体験や研究成果を発表した。それぞれの地蔵や祠は地域の歴史的な成り立ちや民間信仰を表している半面、開発で移動したり祠を世話する地元の担い手が減っているなど地域コミュニティーの変化も浮かび上がった。
 谷本さんの発表に先だって、同志社大生の学生ボランティアグループが少子化や担い手不足に悩む地蔵盆に参加した体験を発表した。町内会から小学校区へと単位を広げての開催など新たな地蔵盆の再生案を提言した。
 谷本さんや学生の発表を熱心に聞いていた会場の1人から「地蔵を迎えてお守りしたい」と個人的な相談が寄せられた。谷本さんには、担い手への悩みを持つ具体的な町内会と祠の姿が思い浮かんだという。
 「学生やイベント関係者、参加した市民など幅広い力を合わせれば、人をつなぎ、縁を結ぶ地域コミュニティーの宝として地蔵盆を継続して伝えていくことができる」と谷本さんは実感している。
 来年には、壬生寺とゼスト御池を結ぶ「地蔵さんの観光」を実現したい、と意気込んでいる。

京の地蔵盆・夏祭り体験イベント

8月31日と9月1日にゼスト御池地下街で実施された。京都中小企業家同友会中京支部地域連携グループによる京の地蔵盆・夏祭り相談会実行委員会が主催し、数珠回し体験、射的や輪投げなどのイベントコーナーが設けられた。