2024.01.30
2024.01.30
地域社会の福祉の向上に大きな功績があったとして、2023(令和5)年度京都新聞福祉賞に1氏と1団体が、京都新聞福祉奨励賞に3団体が選ばれた。31日午前10時から京都新聞文化ホールで開かれる贈呈式を前に、受賞者と受賞団体の取り組みやその思いを紹介する。
福祉賞 1氏1団体
◼️NPO法人 ENDEAVOR EVOLUTION
理事長 松浦一樹(まつうら・かずき)さん
元警官 障害者自立に力
NPO法人の代表として就労継続支援A型事業所を運営する。さまざまな企業と信頼関係を築き、利用者に全国平均の約2倍の給与の支給を実現。生活支援にも力を入れ、障害者の真の自立に向け奮闘している。
元々は警察官だった。事情聴取で訪れた福祉作業所で多くの障害者が一生懸命働く姿を目にし、「頑張る人が報われる社会を作りたい」と決意し、周囲の反対を押し切って30歳で福祉の世界に飛び込んだ。
作業所や福祉施設で勤務後、独立してNPO法人を設立。施設外就労として企業で訓練後、戦力として直接雇用につなげるステップアップ型就労支援システムを導入し、着実に成果を出し続けた。
利用者の中には生い立ちや境遇にハンディを抱えた人も少なくない。自ら「命の電話」と称する携帯電話は常に肌身離さず、公私を問わず相談やトラブルの際にはすぐに駆け付け、親身になって対応する。信念は「福祉は目の前の困った人を助けるためにある」だ。(55歳、京都市南区)
◼️NPO法人 リバティー・ウィメンズハウス・おりーぶ
依存症女性の回復支え
2012年から薬物やアルコール依存症などに苦しむ女性のための回復施設を運営する。理事長の山本良子さん(73)は「ゴールは幸せになってもらうこと」と強調する。
「『教えてあげよう』で始まったが、逆に教えてもらうことが多かった」と振り返る。教会の一室で始まった自助グループの活動が原点で、現在では5施設で18人が生活を送る。
利用者は、生きづらさを抱えた仲間とともに自分の経験を話し合うミーティングやスポーツ、ボランティア活動に取り組むほか、認知のゆがみを掘り起こしながら依存症を克服するための回復プログラムを受講する。
団体名の「おりーぶ」は、「生命の樹」とも呼ばれるオリーブの木から名付けられ、「ここから希望を見つけてほしい」との願いが込められている。
これまで送り出した人は300人以上。施設を巣立つ利用者には「たくましく育ってくれるとうれしい」とエールを送る。(大津市)
福祉奨励賞 3団体
◼️不登校児のきょうだい支援 こころ停留所
孤独感じる子に居場所
不登校の児童生徒のきょうだいを支援する会として、2022年に発足した。家族の関心が不登校の当事者に向く中で孤独感や悩みを感じる人に居場所を提供している。
代表の立命館大3年松岡楓華さん(20)は、高校生のときに年下のきょうだいが不登校になった。家族の心配や関心はきょうだいに向かい、家庭内の雰囲気が悪くなった。大学受験を前に勉強のつらさを感じても、これ以上迷惑を掛けられない、と家族に打ち明けることができず、一人さびしさを抱えていたという。
当事者や親を支援する団体はあっても、きょうだいにはフォーカスが当たっていないことから、自分で団体を立ち上げようと決めた。現在は京都光華女子大(右京区)の一室で月に1回、居場所を開いている。「初めて話せた」と表情を和らげる相談者の言葉が活動の原動力だ。
「つらい気持ちを抱えた人が、この停留所で心を軽くして、また日常生活に戻ってもらえたら」と話している。(京都市右京区)
◼️外国籍の子向け日本語教室 りんぐえっじ
日本での選択肢 広げる
立命館大の学生ら10人が京都市上京区で週に1度、外国籍の子どもを対象に日本語の学習支援をしている。通うのはベトナムやコートジボワール出身の4~8歳の5人。「日本語を使って遊ぶこと」を大切に、野菜や動物が描かれた絵を使ったり、動詞を伝えて身ぶり手ぶりで表現したりと、手作りの教材で教えている。
代表の山本応実さん(23)が同大学3年だった2021年に中心となり立ち上げた。きっかけは中学卒業までの大半を中国で過ごし、一時期、中国語の習得に苦労したことだ。「先生や周りの子どもが何を話しているのか分からず、疎外感や心細さがあった」と振り返る。日本では外国籍の子どもへの語学支援は就学後に始まることが多く、就学前から取り組む必要性を感じていた。
「日本語が不慣れだと、その人自身の能力が低いと誤解されることがある」と話す山本さん。支援を広げることで「日本に住む外国の方が選択肢を広げられる社会にしたい」と願う。(八幡市)
◼️ホワイトハンドコーラスNIPPON 京都チーム
「手歌」と歌声 思い表現
障害のある子とない子が同じ舞台に立ち、手話を基に考えた「手歌(しゅか)」と歌声を披露している。来月にはメンバー16人が東京や沖縄で活動する仲間とオーストリアを訪れ、国会議事堂でパフォーマンスをする。
ホワイトハンドコーラスは、社会課題の解決を目指す南米ベネズエラの音楽教育の理念に基づいて設立された。京都チームは2020年に発足し、サポーター7人とともに大徳寺塔頭の龍光院(北区)や京都女子大(東山区)で練習。公演を通して京滋の学校や住民との交流も広げている。
オーストリアでは、ベートーベン「歓喜の歌」やオリジナル曲「にじふらい」を歌う。声楽家の中坂文香代表(51)は「表情豊かに表現できる子が増えてきた。子どもたちのパフォーマンスを見て、社会のあらゆるバリアーについて考えてもらいたい」と話す。
ただ、障害や家庭環境にかかわらず子どもたちが無償で音楽に親しむためには資金面・人材面での継続的な支援が欠かせないという。(京都市上京区)
推薦のことば 選考委員 永田萠さん
本年度も長年にわたって福祉向上に大きく貢献された1個人1団体に福祉賞を、今後の活躍が期待される若い世代の3団体に福祉奨励賞を贈ることを決めました。受賞された皆さまに心よりお祝い申し上げます。
【福祉賞】
元警察官という異色の経歴を持たれる松浦一樹さんの、知的障害や少年院出身の青年たちへの支援活動に目を見張りました。作業所での就労経験やグループホームでの共同生活を経て、彼らが社会の一員として誇りを持って自立していく様子が伝わってきます。その着想の的確さと迷いのない実行力と歳月を重ねても変わらない情熱に深く敬意を払うものです。
「リバティー・ウィメンズハウス・おりーぶ」は、薬物やアルコールの依存症、摂食障害などに悩む成人女性のための支援活動団体。孤立しがちな彼女たちが共同生活の中で心を開き、他者への信頼を得て自立していく様子が広報誌「りぼーん」で報告され胸を打たれます。また代表の山本良子さんがされている薬物の恐ろしさについての講演は、聴衆の学生たちにとって貴重な体験だと思います。
【福祉奨励賞】
「こころ停留所」という魅力的な名称を掲げるこの団体は、不登校の児童のきょうだいの心の支援をするという視点が新鮮で独創的です。代表の松岡楓華さんは現役の女子大生。ご自身が不登校の児童のきょうだいであったことから、活動の必要を感じられたとか。活動経験は浅いものの、定期交流会の開催やSNSでの情報発信など今後の広がりが期待でき、伸びようとする若い力を心強く思います。
外国籍の未就学児を対象にした日本語教室を主催する学生団体「りんぐえっじ」。代表の山本応実さんは、自身の海外生活経験から保護者による言語指導が難しいことを実感されたとか。未就学児を中心とした幼い人への支援は、タイミングとしても有効で成果のあることと思います。楽しく学ぶ工夫にも若い発想力が生かされており、今後の活動が大いに期待されます。
「ホワイトハンドコーラスNIPPON京都チーム」のめざましい活動は、多様性を認めるより良い社会の実現に、大きな寄与をされていると確信します。音楽の力はもちろんですが、構成員の存在がとてもユニークで、さまざまな障害のある子どもたちが演者。それぞれの力を合わせて手話と表情と歌声で作り上げる舞台は、大きな感動と喜びに満ちていることでしょう。ウィーン遠征を心から応援しております。
選考委員(敬称略)
川村 妙慶 真宗大谷派僧侶
小山 隆 同志社大教授=委員長
城 貴志 NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長
永田 萠 京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長
森田美千代 一般社団法人京都障害者スポーツ振興会副会長