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2022(令和4)年度 京都新聞福祉賞・福祉奨励賞 心豊かな未来のための力に あす贈呈式(特集 2023/01/26)

2023.01.26

  • 京都新聞福祉賞・京都新聞福祉奨励賞

 地域社会の福祉の向上に大きな功績があったとして、2022(令和4)年度京都新聞福祉賞に1氏と1団体が、京都新聞福祉奨励賞に2団体が選ばれた。27日午前10時から京都新聞文化ホールで開かれる贈呈式を前に、受賞者と受賞団体の取り組み、またその思いを紹介する。

福祉賞 1氏1団体

◼️竹谷明(たけたに・あきら)さん

京都聴覚言語障害者福祉協会 後援会会長

竹谷明さん

課題山積み 仲間と一緒に活動

 全国のろうあ運動を引っ張る京都で府聴覚障害者協会会長を務め、福祉の向上に汗を流した。「個人ではなく、励まし合いながら活動してきた仲間と一緒にもらった賞」とほほ笑む。
 生まれつき聞こえず、「聞こえないのは世の中に僕だけ」と感じた。思い込みは、多くの友と出会ったろう学校で消えた。
 竹細工の会社に80歳まで勤める傍ら、特に心血を注いだのは、聴覚障害者らが暮らす特別養護老人ホームなどの建設事業だ。募金活動に走り回る中でつれない対応を味わいつつも同志と前へ進んだ。ホームでは今、聴覚障害者と地元高齢者が過ごし、「共生社会の姿がそこにある」と喜ぶ。
 「変な人」と手話を笑われた時代に比べれば社会の理解は広がった。だが、手話教育の拡充や手話言語法の制定など進められるべき課題は山積みという。「若い人を育てたい」とし、ろうあ運動の発展を願う。
 仲間や妻靖子さん(83)への感謝は深い。「1人では何もできなかった」。手話にひときわ力を込めた。(84歳、亀岡市)

◼️がん患者の家族と遺族のためのサロン「ふらっと」

がん患者の家族や遺族のためのサロンを10年間続ける竹内さん(右)と大嶋さん=京都市中京区・京都新聞本社

苦しむ人が語り合える場作り

 主にがん患者の家族や遺族がつらさを語りあえる場として2012年に発足した。患者向けのサロンは数多いが、父親をがんで亡くした代表の竹内香さん(58)=京都市北区=は「患者さんを支える人を、支えたかった」と振り返る。
 京都府庁の旧本館などでこれまでに催してきたサロン活動は約140回。参加者は延べ1500人を超え、患者の家族や遺族をはじめ、友人や医療・宗教関係者など幅広い。
 「治療法の選択は正しかったのか」「もっとできたことがあったのでは」。毎回10人ほどが集まり、後悔の思いが語られる。参加者は決して否定せず、それぞれの悲嘆に耳を傾ける。「同じ経験をした人が一緒に涙を流す。『私だけじゃない』と感じてもらえたら」と竹内さんは話す。
 「ふらっと」の名称通り、月に1度のサロンは予約不要。夫をがんで亡くした副代表の大嶋公代さん(69)=福知山市=は「これからも変わらず、苦しむ人が語り合える場を作っていきたい」とほほ笑む。(京都市右京区)

福祉奨励賞 2団体

◼️ハンド&ネイルケアボランティアチーム ガンチー

ガンチー代表・松本知美さん(京都市中京区・京都新聞本社)

介護の現場 明るく照らしたい

 高齢者向け施設や介護予防サロンを訪問し、無料でネイルアートを行う。指先がカラフルに変化していくにつれ、「普段無口な人も、楽しそうにおしゃべりしてくれるのがうれしい」と代表の松本知美さん(38)。仕事を持つ約20人のスタッフと活動し、本年度は1200人以上に施した。
 3年前、「人の役に立ちたい」と趣味を生かして福祉ネイリストの資格を取った。知人のつてで施設訪問するうち、当事者が笑顔になると介護者の気持ちもほぐれるということに魅力を感じ、2020年4月に団体を設立した。
 ネイルは有償が多い中、どんな状況の人にも受けてほしいと無料にこだわり、材料費は企業や団体の寄付でまかなう。協賛社探しの苦労も「活動を知ってもらえる機会」と前向きだ。
 過酷な介護現場で、福祉ネイルが少しでも明るく照らす光になればと願う。「スタッフを増やして多くの施設を訪問したい。いろんな地域で活動する団体が生まれるよう、認知度も高めたい」(京都市左京区)

◼️ボランティアサークルHarmony

障害者と油絵の創作活動をするHarmonyのメンバーら(彦根市内)

障害者とメンバーが共に成長

 滋賀県立大(彦根市)の学生が2003年に立ち上げ、自閉症スペクトラム障害やダウン症などの子どもや青年たちを支援している。油絵の創作や茶道体験などをする月1回の定例活動や、近隣での野外活動、宿泊体験などを行ってきた。
 学生たちは「無理なく楽しく」をモットーに活動。22年の代表の池山理帆さん(21)は「障害者たちが楽しみ、また来たいと思われる空間を作り、メンバーと互いに成長する相乗効果を生み出したい」と語る。
 初めて接する障害者との向き合い方に悩むこともあるが、保護者の助言を受けながら関係を築く。うまくコミュニケーションが取れたり、個性を生かした絵の完成を目の当たりにし、喜びを感じる。活動を機に保育士や特別支援学校の教諭などに就くメンバーもいる。
 コロナ禍で、オンラインでクリスマスコンサートを開くなど工夫が続く。23年代表の西村侑花さん(19)は「油絵を紹介する展覧会の開催やグッズ販売などにも力を入れ、ハーモニーの活動を発信したい」と話す。(彦根市)

【講評】選考委員長 小山隆・同志社大教授

 福祉賞と福祉奨励賞合わせて19件の推薦があり、選考会で論議を重ねました。長年にわたって福祉向上に大きく貢献された1個人1団体に福祉賞を、今後の活躍が期待される2団体に奨励賞を贈ることを決めました。
 【福祉賞】
 竹谷明さんは、長年にわたって京都府聴覚障害者協会などの要職を務められた。日本で最初のろう重複障害者授産施設や聴覚障害者専用の特別養護老人ホームの建設運動をけん引するなど、常に先頭に立って活動を展開され、福祉向上に貢献された。
 がん患者の家族と遺族のためのサロン「ふらっと」は、10年以上にわたって、がんで大切な人を亡くした人のグリーフサポートを実践されてこられた。他の患者会や公的支援機関などと連携をとり、重要な活動を継続されている。
 【福祉奨励賞】
 ハンド&ネイルケアボランティアチーム ガンチーは、高齢者や障害者施設に訪問して、無償のハンド・ネイルケア活動を実践されている。ネイルシールを活用した防犯や防火活動に取り組むなど、ユニークで今後の展開にも期待したい。
 ボランティアサークルHarmonyは、大学生のボランティアが集まり、20年近くにわたって先輩から後輩へ引き継ぎ、障害児・者の余暇活動支援に取り組んでおられる。若い世代の福祉への理解を深める場となっている。

選考委員 (敬称略)

川村妙慶・真宗大谷派僧侶
小山隆・同志社大教授
城貴志・NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長
永田萠・京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長
森田美千代・一般社団法人京都障害者スポーツ振興会副会長