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2021年(令和3)年度 京都新聞福祉賞 令和3年度 2氏1団体受賞 安らかな未来支え   あす贈呈式(特集/2021/12/07)

2021.12.07

  • 京都新聞福祉賞・京都新聞福祉奨励賞

 地域社会の福祉の向上に大きな功績があったとして、令和3(2021)年度京都新聞福祉賞に2氏と1団体が選ばれた。8日午前10時から京都新聞文化ホールで開かれる贈呈式を前に、受賞者と受賞団体の取り組み、またその思いを紹介する。

福祉賞 2氏1団体

◼️田中嘉代(たなか・かよ)さん 滋賀県網膜色素変性症協会会長

田中嘉代さん

患者と対話大事に

 網膜に異常をきたす進行性の難病「網膜色素変性症」を48歳で発症し、50歳を過ぎたころ完全に失明した。「自殺しようか」。落ち込む日が続いたが、京都にある視覚障害者のためのリハビリ施設と出合った。「自分だけが悩んでいるんじゃない」と知り、パソコン操作などを身に付けた。
 2003年に滋賀県網膜色素変性症協会が設立され、18年に会長に就任した。患者は県内300人以上とされ、現在約70人が協会に所属している。
 広報誌を発行する一方、講師として県内の小学校を巡り、「声掛けなど少しの協力で、私たち障害者のできることが広がる」と訴え掛ける。
 協会設立時から大事にしているのが、患者との対話だ。自身も苦しんだ体験を伝え、「私も頑張るわ、と言われるのが一番うれしい」と笑う。
 プライベートでは洋服作りもこなし、健常者とペアの社交ダンスでは全国大会6位という成績も収めた。「全盲でもできることがあると、患者さんにも社会にも伝えたい」と力を込める。(東近江市、68歳)

◼️中川敏子(なかがわ・としこ)さん 京都市ひとり親家庭福祉連合会母子部長

中川敏子さん

子の学び寄り添う

 家計の事情で塾に通うことが難しい子どもを対象に、無料の学習支援会「ゆう」を主宰する。京都市西京区の会場で月に数回、大学生や社会人のボランティアとともに、小中学生や高校生の学びに寄り添う。2011年の設立以来、200人以上を支援した。
 自身も働きながら単身で3人の子どもを育てた。子どもの高校受験時には、多い月で10万円以上の塾代が必要だった。ひとり親にとっては重い負担で、他の母子家庭も事情は同じだった。「収入の低さが学力の低下につながってはいけない。支援できる場所が必要なのではないかと感じた」と振り返る。
 ひとり親世帯は、将来に対する不安、育児の悩みなどを抱えがちだ。「ゆう」では子どもの勉強だけでなく、菓子作りやバーベキューなど保護者の交流会も開催してきた。「同じ立場の人が話せる場をつくり、不安や悩みをやわらげることにつなげたい」
 今年6月からは市ひとり親家庭福祉連合会母子部長にも就任。研修会の企画などさらなる支援に力を注ぐ。(京都市西京区、61歳)

東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」シオンの家

冊子の封入作業をする参加者たち(京都市下京区、ひと・まち交流館京都)

語り合い心温める

 2001年から不登校や引きこもりになった子どもの親の会として活動してきた。世話人の大槻明美さん(68)と上坂秀喜さん(63)は「親の会は『温泉』。たまった心のあかを互いに流し合い、心と体を温める場所」と力を込める。
 親の会は月2回。悩みや不安を率直に語り合うことで心の余裕を生み出してきた。「親のしんどさが減ると子どもも安定する」と上坂さん。個別相談や自宅への訪問活動、親向けの学習会も続けている。
 当事者の子どものための居場所活動も展開する。おしゃべりやゲームを楽しむ茶話会を毎週開くほか、雑談が苦手な人でも参加しやすいよう冊子の封入作業も毎月行う。絵を描くなどして自由に感情を表現できる臨床美術の会やギター教室なども催し、多くの人が元気を取り戻してきた。
 団体名は多年草のシオンの花言葉が「君を忘れない」であることから付けた。上坂さんは「子どもたちが自分で悩みながらも行き先を決めて動く力をつけられるよう、これからも必要な取り組みをしていきたい」と語る。(京都市東山区)

■講評―選考委員長 小山隆・同志社大教授

 本年度は15件の推薦があり、地域福祉向上のために大きく貢献された2個人1団体を選びました。受賞者の皆さまのご功績に敬意を表しますとともに、今後の活躍を期待しています。
 田中嘉代さんは、難病・網膜色素変性症の患者・家族らのために、当事者である自身がリーダーとなって、生活の質の向上のための医療講演会や治療法の研究促進のための募金活動、啓発活動などを地道に続けてこられたことを評価しました。
 中川敏子さんは、ひとり親家庭の支援活動に積極的に参画されています。経済的に困窮している子どもたちの学習支援会を立ち上げ、親子の居場所づくりなどにも着手され、ひとり親家庭の支援活動の実践において成果を上げられました。
 東山区「不登校・ひきこもりを考える親の会」シオンの家は、身近な家族が子どもに寄り添えるように親を支援する交流会を継続して開催されています。活動の場を京都市域に広げ、子どもの居場所づくりなどに支援を広げられました。

選考委員 (敬称略)

川村妙慶・真宗大谷派僧侶

小山隆・同志社大教授

城貴志・NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長

永田萠・京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長

森田美千代・一般社団法人京都障害者スポーツ振興会副会長