ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

2020(令和2)年度 京都新聞福祉賞 令和2年度 3人受賞 安心な社会の力に(特集)

2020.12.07

 地域社会の福祉の向上に大きな功績があったとして、令和2(2020)年度京都新聞福祉賞に3氏が選ばれた。1965年に始まり、前年度までは京都新聞大賞の一部門・福祉賞だったが、大賞の見直しにともない単独の賞として名称を変更し、新たな形での第一歩となった。8日午前10時から京都新聞文化ホールで開かれる贈呈式を前に、受賞者3人の横顔、それぞれの思いを紹介する。

福祉賞 3氏

◼️濵本捷子(はまもと・かつこ)さん 前関西盲導犬協会会長

濵本捷子さん

街歩きの喜び

 2016年から今年6月までの4年間、関西盲導犬協会(亀岡市)の会長を務めた。視覚障害者が会長職に就くのは初めて。寄付を寄せる企業につえをついて赴き、点字の感謝状を読み上げた。「皆さんが支援してくださるのはこういう人間なんですと、当事者の立場から伝えること」に力を入れた。
 生まれつき視力が弱く、子育てや親の介護で多忙だった50歳で全盲に。中途失明者のための訓練を経て、53歳から盲導犬との生活をスタートさせると「人生が180度変わった」。さっそうと街を歩く開放感。心が通じ合う喜び。2代目の盲導犬と合わせ計17年間を共に過ごした。
 会長退任後も、新型コロナウイルス禍の協会の維持に心を砕く。希望者に盲導犬を無償貸与する活動は、寄付やボランティアの善意で成り立っているが、コロナで街頭募金活動もままならない。「視覚障害者の心の支えになる盲導犬事業に力を貸してほしい」。協力を呼びかけ続けている。(大津市、78歳)

◼️浜田きよ子(はまだ・きよこ)さん 高齢生活研究所代表 排泄用具の情報館「むつき庵」代表

浜田きよ子さん

尊厳守りたい

 排泄(はいせつ)用具の情報館「むつき庵」(上京区)を2003年に設立した。おむつや福祉用具など計約800点を展示し、高齢者や障害者の排泄トラブルの相談に応じてきた。「その人のことをよく知ること」を信条に、水分の摂取頻度、身体機能などを丁寧に聞き取る。「排泄のケアは人の尊厳に関わる部分。適切なケアはその人らしい生き方を守ることにもつながる」
 母親の介護をきっかけに福祉について考えるようになった。医師の助言で、母親を説得しておむつを着用させたが、約1カ月後に亡くなった。「介護する側の利便性だけでなく、介護される側を考えたケアが必要だと感じた」と振り返る。04年から始めた独自の研修「おむつフィッター」では、医療や食事など幅広い分野から排泄トラブルの解決を助言してきた。研修生は延べ約1万人にのぼる。1人暮らしの高齢者や老々介護が増加する中、「研修生が地域とつながる重要性が増してきた。まだまだ人材を増やしたい」と語る。(京都市左京区、70歳)

◼️松村裕美(まつむら・ひろみ)さん おうみ犯罪被害者支援センター副理事長・支援局長

松村裕美さん

心の傷に添う

 犯罪に巻き込まれ心身を傷つけられた被害者らに20年間、寄り添い続けている。「『もういいです』と言われるまで、必要な支援を必要なだけ尽くしたい」と話す。
 おうみ犯罪被害者支援センター(大津市)の設立時にボランティア相談員になって以降、電話や面談、警察や裁判所への付き添いなど細やかに支援してきた。副理事長の現在も常に3件以上の被害者対応をしつつ、相談員の育成やセンターの周知活動に奔走している。
 被害内容は性犯罪、殺人事件、交通事故など多岐にわたる。加害者が逮捕や起訴されなかった場合や、判決後も、被害を忘れられずに苦しむ人もいる。「明確な解決策を伝えられない場合も多い。まずはひたすら思いを受け止めることを大切にしている」と語る。
 「生活の基盤を回復させないと心の傷も癒えない」。被害者が日常生活に戻れるよう、行政や福祉施設などと連携した総合的な支援の必要性を強調する。(大津市、69歳)

■講評―選考委員長 小山隆・同志社大教授

 福祉賞の推薦は25件と多く、活動の長さや新しい取り組みなどの視点を軸に委員会で論議し、3人を決めました。賞に値する個人・団体が多くありました。受賞の3人について簡単ですが紹介します。
 濵本捷子さんは、40年の長い歴史のある関西盲導犬協会で初の女性会長を務められました。歴代会長で視覚障害のある当事者は初めてでもあり、盲導犬の元ユーザーとして各地で講演をするなど盲導犬の啓発事業に大きな役目を果たされました。
 浜田きよ子さんは、母親の介護をきっかけに自ら高齢生活研究所を立ち上げ、排泄用具の情報館を開設されました。介護が必要な時に自分に合う用具に出会うことで、その人らしい生活ができるようにと情報拠点の発信力を評価しました。
 松村裕美さんは、注目されにくい犯罪被害者支援の大変な活動に携わってこられました。おうみ犯罪被害者支援センターの設立時から20年間のボランティア相談員を務めた実績を評価しました。リーダーとして後進育成にも期待します。

選考委員(敬称略)

川村妙慶・真宗大谷派僧侶

小山隆・同志社大教授

城貴志・NPO法人滋賀県社会就労事業振興センター理事長兼センター長

永田萠・京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長

森田美千代・一般社団法人京都障害者スポーツ振興会副会長