ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

「断らない相談」課題探る

2024.11.12

  • わたしの現場

桐高 とよみ(きりたか とよみ)さん

権利擁護で暮らし支える(24/11/12)

 判断能力が不十分な人が、その人らしく暮らせるように―。そんな思いで活動する甲賀市の甲賀・湖南権利擁護支援センターぱんじー。権利擁護や成年後見制度に関する相談に応じ、他機関と連携して困りごとを抱える人を支える。所長を務めるのは桐高とよみさん(52)。制度のはざまにいる人や、他機関で支援しきれない人のセーフティーネットになるべく、「断らない相談」を掲げる。
「身寄りがない高齢の人、虐待されてきた人、障害があり借金もある人、障害があるわが子の親亡き後が心配な人など、方々で断られた人たちが来られる。困りごとが複雑かつ複合的で、何が優先課題かわからない人もいるので、『何でもいいから相談して』というスタンスでいます」
 福祉と法律の間を行き来する制度の難しさから、福祉職の担い手が少ない成年後見人。地域のニーズに応えるかたちで、同センターを運営するNPO法人ぱんじーが設立された。桐高さんは特別養護老人ホームのソーシャルワーカーで、成年後見活動もしていたことから設立メンバーになった。
 法人後見の必要性から生まれた団体だが、現在の活動は相談支援や支援者支援が中心だ。「成年後見制度は本人の権限を奪う側面もある。制度ありきでなく、『制度が本当に必要な人につながっているか』という視点をもち、支援をすることによる権利擁護を大事にしたいのです」

「その人が望む暮らしができていないなら、手助けしたい」と話す桐高とよみさん(甲賀市・甲南地域市民センター)

 年間3千件超の相談は、主に地域包括支援センターや相談支援事業所、行政などからつながってくる。多くは「自分たちでは解決できない」という理由だが、「支援者の目指す『解決』と、本人が望む暮らしは違う」とも感じる。
 ぱんじーの支援は、「あなたはどうしたいの」と聞くところから始まり、課題を探る。貧困やひきこもりなど、支援者目線の課題から本人を見るアプローチとは逆だ。困りごとが当たり前すぎて「困っている」と自覚できない人も少なくないが、自分が何を望んでいるか気づいてもらい、そのための課題を一緒に整理する。課題が見つかれば、法律家や事業所、行政などと連携して解決に向かう。
 「選択肢さえ浮かばない人に、自分で人生を選び、切り開いてもらいたい。情報を提供し、本人が決められるよう支える」。それがぱんじーの仕事だ。「お金の使い方も、『こんなに使ったら、あとがしんどいね』というやり取りができることが大事だと思う」
ぱんじーの特長の一つは、サービス提供者や環境が変わっても、一人の人をずっと支援できること。もう一つは、フラットな立場で関われることだ。「支援者や家族の意向でサービスが組み立てられたり、利害関係のある人ばかりに囲まれたりすると、本音を言いにくくなる」。本音が言える第三者の存在の大きさを実感する。
 「この仕事の醍醐味は、私の価値観を拡げてくれる方々と出会えること。自分一人ではなく、法人の仲間がいることも心強い」。大事な仕事だが、同志がまだまだ少ないのが課題だ。「これからは、権利擁護の大切さに加え、仕事の魅力も広く伝えていきたい」


(フリーライター・小坂綾子)