ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

こころのお土産

2024.12.10

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

 南座にまねきが上がりますと、年の暮れを思います。クリスマスやお正月を控えて街が活気づくひと月ですが、それに加えて、寒くなっても観光客は途絶えることがなく、どこに行っても人の多さに驚かされます。

 飲食店の行列も増えたように感じます。ほとんどが外国の方。私は並ぶのが苦手なので、せっかく京都に来ているのに並ぶ時間はもったいないと思いますが、それぞれの楽しみ方があるのだと理解しています。
 御所の前を通った時のことです。広く開かれた門の中の景色が目に入り、少し急いではいたのですが中に入ってみました。何か特別なものがあるわけでもなく、広い砂利道と大きな木々がうっすら色づいているだけの見慣れた景色だったのですが、冬色のたたずまいはとても美しく、こころ深くしみてくるものがありました。時間を忘れてしばしそこに立ち止まっていますと、突然大きな話し声が聞こえてきました。
 振り返りますと、スマホを乗せた三脚が立てられていました。言葉は分かりませんでしたが、ベストショットを撮ろうと意見を交わしておられたようで、写真を数枚撮ると門から出て行かれました。私は、もう一度目の前の景色を見ながら、彼女たちはこの景色を見たのだろうか、この空気を感じてくれたのだろうかと思ったのでした。

 写真は旅の大切な記念ですから彼女たちの気持ちがわかります。また、京都には世界に誇れる食べ物も工芸品もありますから、ぜひお食事やお土産を選ぶ時間も十分に楽しんでいただきたいとも思います。免税の買い物も否定しません。ただ、私はそれら形のあるものだけではなく、京都の本当の文化や雰囲気をゆっくり感じる時間も持っていただきたいと思っています。京都に滞在して、その時にこころに感じられたものを、ご自身へのお土産として持って帰ってほしいと思うのです。かなうかどうか分かりませんが、京都に住まいするひとりとしての切なる願いです。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。