ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

お客様は神様ですか?

2024.12.23

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

もみじヶ丘病院院長、精神科医 芝 伸太郎

 カスタマー(顧客)とハラスメント(いやがらせ)を組み合わせた「カスタマーハラスメント(カスハラ)」という和製英語があります。自己中心的な顧客が、飲食店などで無茶苦茶(むちゃくちゃ)な要求やクレームを店員に突きつけて、心理的ときには身体的にも店員を虐待する深刻なハラスメントであり、最近の報道でよく耳にするようになりました。

 ちなみに、上司が部下の人格まで否定するような厳しい叱責(しっせき)を行うパワーハラスメント(パワハラ)もパワー(権力)とハラスメント(いやがらせ)を組み合わせた和製英語です。米国では辛(つら)い思いをした部下はパワハラを訴える前にさっさと転職してしまいます。

 一社忠勤が美徳とされず労働者の流動性が大きい米国では、次から次へと自分に合う仕事に移るのが普通です。労働者が特定の企業にしばられずに自由に動くからこそ、米国経済は力強く、パワハラ的問題も生じにくいことになります。
 和製英語で表現されるパワハラ的事象が米国に少ないのは、日本と米国で文化や風習や制度が異なるからです。では、カスハラはどうでしょうか。



 「お客様は神様です」は三波春夫さんが流行(はや)らせたというのが有力な説です。ただし、三波さんご自身の真意は置き去りにされ、この台詞(せりふ)が一人歩きするうちに「お金を出す側が偉い」というばかげた価値観が醸成されてしまいました。。

 欧米を旅行した経験のある方なら、皆さんご存じでしょう。顧客と店員は立場が対等で、お互いに「ありがとう」と言います。「金銭と商品(サービス)をうまく交換できれば両者ともにハッピーになるよね」という共通認識があればカスハラは生じえません。

 日本もそろそろ「お客様は神様です」という思想から脱却すべき時期にきています。商品を買う顧客しかり、人的なサービスの受給者しかりです。「お金を出す側」と「お金を受け取る側」が対等な立場で敬意を持って向き合うような社会でありたいものです。

しば・しんたろう氏
京都大学医学部卒。兵庫県生まれ。 1991年もみじケ丘病院。2018年より現職。専門は気分障害の精神病理学。