ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

月額500円の引き上げ?

2025.01.20

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

弁護士 尾藤 廣喜

 厚生労働省は、昨年12月、2025年4月1日からの生活扶助基準を1人当たり月額500円程度引き上げる方向で検討に入ったと報道されている。


 一方、現状は異常な物価上昇によって、20年基準で24年10月の「生活扶助に相当する物価指数」が、2人以上の世帯113.5、単身世帯113.9となっており、保護基準を13%以上大幅に引き上げないと実質的には引き下げになってしまうのが実態である。


 月額500円といえば、都会地に住む単身世帯の生活扶助費のわずか0.7%に過ぎない。
 同じように物価高に悩むドイツでは、22年、23年と12%ずつ、スウェーデンでも9%ずつ、韓国では、7%、14%と引き上げられていることと対照的である。


 このようなことになった理由は、日本では、生活扶助基準の5年毎の見直しにあたって、全国家計構造調査での第1十分位(所得の下位10%)の人の消費水準と比較して生活扶助基準が高いか低いかによって扶助基準を定めるという手法が取られていることにある。いわば、低いもの同士で比較し、低い方に合わせるということになっているからである。

 現に、23年の生活保護基準部会の報告書によれば、第1十分位の人の消費水準と比較すると、26年からの扶助基準についても、引き下げが必要との結果になることが予想されていた。

 このように、現在の最低生活費の決定方式は、物価の高騰には全く対応できていないのである。
 生活保護制度は、全ての人に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度である。それだけでなく住民税非課税基準、就学援助、国民健康保険の保険料減免基準など多くの制度と連動し、ナショナル・ミニマムとも言われている。

  市民の「生存権」保障のため、国がどういうレベルまで責任を果たしているのかについて、生活保護制度利用者だけでなく、全ての人が関心を持ち、意見を述べる必要がある。。

びとう・ひろき氏
1970年京都大法学部卒。70年厚生省(当時)入省。75年京都弁護士会に弁護士登録し、生活保護訴訟をはじめ「貧困」問題について全国的な活動を行っている。