2025.02.11
2025.02.11
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠
私の心の中には、5歳の「もえ」という名の女の子が居る。初めて彼女に会ったのは同い年の春のこと。私はたんぽぽの咲くあぜ道で、空を仰いでわぁんわぁん泣いていた。ひとりぼっちだった。その時、声が聞こえた。「泣くなよ、もえちゃん。あんたは今は小さいけど、おとなになって強くなったら、もうそんなにバカみたいに泣いたりしないから」そうか…、私は納得して泣くのをやめた。
以来ずっとその「ちいさなもえ」は私といっしょで、いろいろおせっかいをやいてくる。たびたび説教もする。一番悔しいのは描いたばかりの絵を見て、「ふーん。それでいいの?わたしは納得できないな」と言われること。外からの声は手でふさいだり、耳せんをしたりできるが、心の中から聞こえる声のための耳せんはない。しかたなく描き直す。
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こどもみらい館の仕事をしていて一番幸せだと思うのは、公立・私立の幼稚園、保育園を訪問して、園児さんたちと交流できることだ。年長さん20人ほどの子どもたちといっしょに過ごしている。私の描いた絵のクイズをしたり、絵本の読み聞かせをしたり。こんな時、私の「ちいさなもえ」は大喜び。同世代の友だちにいっぱい会えるからだ。おしゃべりして笑い合って、楽しくてしかたない。
担任の先生や園長先生もニコニコ。それを見てよく思う。「この方たちの心の中にも〝ちいさなわたし〟がずっと居るのだろうな」と。保育という仕事の場には、自分もかつては子どもだったことを忘れていないおとなが必要なのだ。同じ幼な心を持つ先生たちに守られ、大切にされ愛されている子どもたちの笑顔は輝いていて美しい。私の中のもえも笑っている。
おとなになってもわぁんわぁん泣きたいことはあるよ。でもおとなになったからこそ、わかる幸せはあるね。これからもよろしくね。と、私は「ちいさなもえ」にそっと言う。
ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。