ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

こころを向けること

2025.02.24

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

 ボランティア活動を始めたのは10年余り前のこと。ボランティアと言ってもたいした事はしていないのですが、一緒に活動する仲間とともに、多くの出会い、そして貴重な経験の中に人と人が関わり合って生きていくための大切な気付きをいただいています。

 先日開催された京都マラソンに、今年もボランティアとして参加しました。夜半からの雨も上がり、晴れやかな気持ちで担当場所に向かいました。私の主な役目はコース沿道の整備。そして沿道におられる方がコース内に入ってしまわれないように気をつけながら応援もします。「走る」という行為からすっかり縁遠くなってしまっている私の目には全てのランナーのお姿が輝いて映り、応援の声も大きくなります。
 私の持ち場はコースを横断できる場所でした。ただランナーが見えている時はコースに入らないでもらいたいという指示があり、その通りにしていましたが、なにしろランナーは1万6千人以上。なかなか対面に渡っていただくタイミングがなく、横断を待つ方がどんどん増えてきて「なんで通さへんのや」などと怒鳴る方や、私の言うことなど無視してランナーすれすれに横切られる方もある状況になってしまい、戸惑いと不快を覚えかけた時でした。「お待たせしてすみませんね」と言う市職員さんの言葉が耳に入り、私はハッとしました。役割を果たすことだけに気を取られ、沿道の方々の気持ちへの配慮が欠けていたことに気づいたのです。

 そこで、「すみません。暫(しばら)く待ってくださいね」とお願いしてみますと、とても落ち着いて対応できることを実感したのです。不快に感じてしまったのは、不測の事態の中で、こころを広く向けることを忘れてしまった私自身に原因があったのだと思いました。
 折しも私の横におられた子どもさんたちのかわいい応援の声が響き始め、ランナーの皆さんも思わず笑顔に。私自身も楽しい気持ちで最後までお手伝いさせていただきました。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。