ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

かわいい子には

2025.04.22

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

イラストレーター・こどもみらい館館長 永田 萠

 あれは春休み中の東京行き新幹線の自由席車両でのことだった。姫路の仕事の帰りで、ホームも車内も人でいっぱい。なんとか2人席の通路側の席に座れたが、新大阪駅でも乗客の方が空席よりも多く、何人もの人が通路を行き交っていた。その中に小学生らしい少年が2人。5年生と3年生くらいだろうか。何げなく見送ったのだが、驚いたことにしばらくしてその子たちだけが引き返してきた。

 そして「空いてないねぇ」と小声で話しながら、前方のデッキに行って立ち止まった。2人きりなのだ。わたしは席に荷物を置いて後を追った。ドアが開くと一足先に通りかかったらしい若い女性が、かがみ込んで何か話しかけている。わたしが「この子たち、どうしたのですか?」と聞くと、彼女は困惑気味に答えた。「2人で東京まで行くんですって」。やっぱり!「坊やたち、おばさんは次の京都で降りるの。席を空けてあげるからいらっしゃい」。少年たちは素直についてきた。ところが席が一つしかないのに気がつくと、年上の子が首を振った。「2人いっしょにいたい」「次で降りる人があるから、それまで弟さんを座らせて、キミがそばにいてあげたら?」。少年は少し顔を赤くしてうつむき、「通る人の邪魔になる」と言った。すると、反対通路席の中年男性が「ぼくが代わりますよ」と立ち上がって席をゆずってくれた。わたしはほっとして、その人に会釈して後方のデッキに行った。

 京都駅で降りてホームから車内を見ると、2人は仲良く並んでゲームをしていた。あれからまた誰かが席を代わってくれたのだ。やさしい人たちが見守ってくれて、本当に良かった。

 しかし今も不思議でならない。あの子たちが東京に着いたのは8時ごろのはず。誰かが迎えに来たのだろうか。でも何故の2人旅?「かわいい子には旅をさせよ」と昔の人は言ったけれど、まさか「家訓」だったりして?

ながた・もえ氏
出版社などでグラフィックデザインの仕事に携わった後、1975年にイラストレーターとして独立。2016年より京都市子育て支援総合センターこどもみらい館館長に就任。