2025.07.15
2025.07.15
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。
ACT-K主催、精神科医 高木 俊介
病院・施設の面会制限が相変わらず続いている。コロナが5類になってから、ちょうど2年の今年5月に全国の大学・日赤病院について再度調べたところ、昨年9月の調査からほとんど改善されていない。厳しく理不尽な制限のままだ。
家族や親しい人の死に際に会えない苦悩と悲嘆、家族と会えずに弱っていくお年寄り、家族と縁遠くなるばかりの施設入所している障害者が後を絶たない。このことは、いざ自分の身に起こってみるまでは、わからないのかもしれない。
最期の時には会ってもらっています、と弁解する医療者もいる。逆に言えば、末期にならなければ会えないということだ。日常の当たり前を例外とすることが、医療の常識になってしまった。知らず知らずのうちに、医療を最優先して他を顧みない考えが社会に一般化したかのようだ。そして、そのようなことが5年間続き、その間に育った新人医療者は、それを当然と考えるようになった。なぜ、煩わしい面会の世話をしなくてはならないのか、私たちだって大変なのだ、と。

科学的根拠があるわけではない。海外では厳しすぎた制限の反省から様々(さまざま)な検証が行われ、面会制限に科学的根拠がないだけではなく、患者や家族の健康に悪影響であるとしている。実際、面会制限の厳しい病院でも感染が起こる。日常生活をしている病院職員から感染しているのである。
根拠のない制限なので、長く続けるとおかしな事が起こる。ペットは良いが孫はダメという笑えぬ話もある。これでは医療への信頼は損なわれるばかりだ。
根拠のないことを権威ある医者が言えば、それは強制と服従の関係になる。その関係が当たり前になれば、社会全体が権威にかしずくだけの、全体主義的社会になってしまう。
コロナ禍のパニックを無用に引きずることは、徐々に社会の活力を削(そ)いでいく。そこからの脱出は強い意志が必要だ。そのひとつ、きっかけとして、まずは病院・施設の面会制限をやめるべきではないだろうか。
たかぎ・しゅんすけ氏
2つの病院で約20年勤務後、2004年、京都市中京区にACT-Kを設立。広島県生まれ。