ともに生きる [TOMONI-IKIRU]

運転のこころ

2025.07.22

  • コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

僧侶・歌手 柱本 めぐみ

 過日、運転免許証の更新に行きました。おかげさまで優良運転者ということで京都駅前での手続きができ、さして待たされることもなく、気楽な気分で手続きが進みました。

 優良運転者にも講習があります。いつものように交通事故の実態や事例、運転ルールの確認など、ひと通りの内容だろうと想像した私は、正直なところ少々退屈な時間になるかもしれないと思っていました。しかしその講習は、退屈などと思った自分を大いに反省するものとなったのでした。

 先(ま)ずビデオが上映され、交通事故で高校生の息子さんを失くされた方のお話で始まりました。普段と変わらずに登校された息子さんが無言での帰宅となった日のことを思い出すのは、本当にお辛(つら)いだろうと思いました。それでも同じ思いをする人が無くなるようにという強い気持ちでお話しになったのでしょう。そして最後に、「運転はテクニックではなく、こころだと思います。事故で傷ついたり亡くなったりした人、そのご家族を始め、どれほど多くの人が悲しい思いをするかを考えれば自(おの)ずと正しい運転ができると思います」とかみしめるように言われたとき、私は頭に冷水をかけられた感じがしたのでした。

 私はたまたまこの5年間は事故に遭遇しませんでしたが、運転する限り事故を起こす可能性はゼロではありません。長距離運転も控え、運転は凶器を操っていると思うようにもしていますが、それでも無意識にスピードを出していることがあります。「事故を起こしたら大変なことになる」と気持ちを引き締めますが、そのときの頭の中では加害者にならないようにという自己中心的な考えが先にあり、被害者のことを考える気持ちが後になっていたことに気づいて、とても恥ずかしくなりました。

 人と人は関わり合って生きているのですから、運転に限らず同じようなことが言える場面が他にもあるような気がします。「運転はこころ」。私の座右の銘のひとつに加えたいと思います。

はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。