ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

コラム「暖流」


コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

人を信じられる力





あしなが育英会の副会長青野史寛さん(ソフトバンク専務執行役員)が、学習とボランティア活動(募金運動)との両立に悩んでいる大学生(遺児)に対し、「悩んでいるならとことん募金活動をやろう」と勧められたそうだ。

その話を会長の玉井義臣さんから聞いて、私は一瞬「え? 募金活動のために進学を犠牲にしてもいいの?」と疑問を覚えたが、私自身の募金活動を思い出して、直ちに納得した。

 10年前、東日本大震災のあと、東京・山手線の各駅前で、1カ所1週間ずつ、早朝の1時間、仲間たちと共に、被災者のための募金活動をしたことがある。

知らぬ顔で過ぎる人たちも少なくなかったが、涙を浮かべながら「しっかり届けてください」と手を合わせる方、財布から1枚、2枚と1万円札を出して10枚出してくれたミドルエイジのOLさん、一度家に帰って大きなビンにいっぱい入ったコインを全部寄付してくれたおじいさん、母親をせついて千円札を出させた4歳か5歳の男の子など、思い出せば胸にぐっとくるシーンが昨日のことのようによみがえってくる。

どれも忘れられない感動であり、この思い出があれば、どんなひどい目にあっても「世の中には、人を支えたいと思う善意の人たちがいっぱいいる」という信念は揺るがないであろう。とことん、つまり心を込めて募金活動をするということは、何があっても人の善意が信じられるという、生きていく上で大きな大きな力となる信念を、無償で得られるということだと改めて思った。それなら進学を1年棒に振っても、身に付く力の方がずっと多いであろう。

さわやか福祉財団は、来たる9月1日、2日、横浜で「いきがい・助け合いサミット」を開催し、あたたかい助け合いが強いいきがいをくれることを、いろいろな角度から確かめる。そこで会う人は、ひょっとして一生の宝となる、いい仲間になるかもしれない。


ほった つとむ氏
1934年宮津市生まれ。京都大法学部卒業。東京地検特捜部検事、最高検検事などを経て、91年に法務大臣官房長を最後に退職。現在、ボランティア活動の普及に取り組む。弁護士。著書に「おごるな上司!」「心の復活」「少年魂」など。