ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころの教科書

僧侶・歌手 柱本めぐみ



今年も、「父の日チャリティーコンサート」を無事に終わらせていただくことができました。活動が続けられるのは皆さまのおかげであり、そのお気持ちのあたたかさに改めて気付く機会となりました。そして、今年はもうひとつ、気付いたことがありました。

「卯の花の匂(にお)う垣根に」で始まる『夏は来ぬ』は、ホトトギスや蛍、水鶏(くいな)、田植えといった日本の初夏を彩る風情が織り込まれていて、日本の真の美しさが目に浮かぶ唱歌です。父の日コンサートには必ず歌う歌で、今年はオープニングに選びました。前奏とともに緞帳(どんちょう)が上がり、ここちよい緊張感の中、「卯の花の」という一節でコンサートが始まるはずでした。ところが、本番の第一声は「匂う」でした。「卯の花の」までがマイクに入らなかったのです。かなり動揺しましたが起こってしまったことは消せませんから、「初めの出来ごとは忘れて歌おう」と自分に言い聞かせました。

父の日ですので「お父さん」に因んだ歌も歌います。なぜかお父さんの歌は少ないので、私の父を想い出して『せなか(父への想い)』という歌を作りました。「うまく生きるより おだやかに生きることを いつもわがままな私に教えてくれた。そして、あなたは そのように生きた人でした」と結びます。この歌を歌っているときでした。「おだやかに」という歌詞がいつになく私のこころにしみたのでした。「そう。おだやかに。」

最後の緞帳が降りた時は、私も皆も最高の笑顔でした。音響の方が謝りにこられましたが私はとがめませんでした。楽しかったステージをおだやかに終わりたかったからでした。

いつまでも頼りない私を、父が今でも見ている気もしましたが、考えてみますと父だけでなく、多くの方の生き方や何気ないことばの数々は、私が日々を生きていく中で、こころの教科書になっていることに気付いたのでした。これからもページは増えていくと思います。ご縁に感謝。


はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。