ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
コラム「暖流」

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

こころを支えてくれるもの

僧侶・歌手 柱本めぐみ



京都の各所で寺社仏閣の特別公開やライトアップなどの催しが目白(めじろ)押しの秋。どこに行っても実に多くの方が足を運ばれていて、京都の文化や歴史に対する関心の高さを知らされます。そんな中で「京都モダン建築祭」という催しが開かれ、明治、大正から昭和初期にかけての近現代の建築物が公開されました。

私の実家もそのひとつとして、2日間公開させていただきました。自由見学という設定でしたし私はその家に暮らしていたというだけで、特に建築や設えの専門知識があるわけではありませんから、詳しい解説をするつもりはありませんでした。ところが、1組目が来られた時にご挨拶(あいさつ)がてら少しお話をしますと、皆さんが一斉に私の話しを聞こうとしてくださったのです。思いがけない反応に少し戸惑いを感じながらも、乏しい知識に聞き伝えで知っている昭和初期の西陣の暮らしや祖父母のこと、さまざまなエピソードを肉付けしてご案内をすることになってしまいました。

さほど広くもない家のご案内にかかった時間は約1時間。それが3組続きましたから、私は自分の記憶にないくらい喋(しゃべ)り続けたのでした。大した内容ではなかったと思いますがお見送りの際、皆さまに「楽しかったです」とうれしいおことばをいただきました。

見学のあとの余韻の中でぼんやりと庭を眺めていたとき、この家が残っているのは建築に関わった職人さんだけではなく、人の出入りがあり、そこに暮らしがあったからだと再認識したのでした。同時に、今もこころを向けてくださる方々があることを実感したことで、守り伝えていくための大きなエネルギーをいただいたように思いました。

小さな町家でも古いものを守っていくのは簡単なことではなく、不安になる時もありますが、思い返せばいつもどなたかに支えていただいてきました。おひとりおひとりのお気持ちが、いかに私のこころの支えになっているかを改めて感じ入った2日間でした。


はしらもと・めぐみ氏
京都市生まれ。京都市立芸術大卒。歌手名、藤田めぐみ。クラシックからジャズ、シャンソン、ラテンなど、幅広いジャンルでのライブ、ディナーショーなどのコンサートを展開。また、施設などを訪問して唱歌の心を伝える活動も続けている。同時に浄土真宗本願寺派の住職として寺の法務を執り行っている。